マシンの素の性能が勝負を左右するST1000
開始3シーズン目を迎えるのは、ベースマシンは1000ccクラスのスーパースポーツと、JSB1000と同じながら、より改造制限が厳しく、ノーマルに近いスペックでのレースとなるST1000。
このクラスは、AstemoホンダドリームSIRの21年チャンピオン、渡辺一馬&作本輝介のうち、作本がJSB1000クラスへステップアップし、渡辺が王座防衛を狙うシーズン。しかし、そうはさせじと、20年チャンピオンの高橋裕紀(日本郵便ホンダドリームTP)が世界耐久の舞台から全日本に復帰。TSRホンダから世界耐久に参戦していた21年も、ST1000クラスに参戦した開幕2戦で優勝→2位となっていた高橋だけに、王座奪回の可能性は充分。ちなみに21年の開幕2戦で、高橋が優勝したレースで2位になったのが渡辺、高橋が2位になったレースで優勝したのが渡辺だった。
「世界耐久から帰ってきて、日本郵便のチームのみんなが『ユウキが帰ってくるなら』ってシートを空けてくれていた。今年38歳になりますが、今の僕は若手の高い壁になりたい。世界中のいろんなカテゴリーを経験して日本に帰ってきて、世界の舞台で走りたいんだったら、僕を乗り越えていかなきゃだめだぞ、みたいな感じです」とは高橋裕紀。
木曜からスタートしたフリー走行では、やはり高橋が全体のペースをリードし、4回の走行のうち3回のトップタイムをマーク。残り1回は渡辺がトップタイムで、公式予選では高橋、渡辺が1-2ポジション。3番手に前田恵助(チームGYTR)、4番手に津田拓也(オートレース宇部レーシング)、5番手に南本宗一郎(アケノスピードヤマハ)、6番手に國峰啄磨(TOHOレーシング)。今シーズン、もうひとつの注目ライダーだった、岩戸亮介(カワサキプラザレーシング)は、金曜のフリー走行で転倒し、脳震盪を起こしたことで、大事をとってドクターストップとなってしまった。
やはり渡辺vs高橋の戦いに予想外の結果が!
決勝レースは、やはり高橋がホールショットを獲り、追走する渡辺とのふたりがレースをリード。3番手以下に前田、津田、南本、國峰がつけ、ほぼ予選ポジション通りの争い。もてぎはお昼頃から弱い雨が降り、このST1000のレースもウェット路面から乾いていくコンディション。数人はウェットタイヤでの走行で、ほとんどのライダーはスリックタイヤでのレースとなっていた。
周回を重ねるごとにトップふたりと3番手以下との差がじりじり開く展開。トップは1周目の90度コーナーで渡辺が高橋をかわし、背後に高橋がピタリとつける展開となっていった。
トップ争いはふたり渡辺と高橋が抜け出し、その差は開いたり縮んだり。渡辺は高橋に決してパスさせず、速い区間で高橋を引き離し、レース終盤にファステストラップをマークして差をつけにかかる。さしもの高橋も届かないか、と思われたラスト3周ごろ、場内に非常なアナウンスが!
なんと、渡辺を含む4人に「スタート手順違反」が宣告され、渡辺にまさかの30秒加算の裁定が下ってしまう。これは、スタート前のグリッド上でタイヤ交換をした際に、規定時間を越えてタイヤ交換作業をしていた、とのことでのペナルティ!
これで、高橋へ約2~3秒のマージンを築いていた渡辺がトップでチェッカーを受けるものの、レースタイムに30秒を加算されて6位でフィニッシュ。優勝は渡辺を最後までかわせなかった高橋、2位に南本、3位に前田のヤマハYZF-R1勢が入ったレースとなった。
「最後まで一馬選手と勝負して抜けなかった…悔しいなぁ、と思っていたら優勝の裁定で。抜けなくて悔しい、でもチームやファンのみんなは喜んでくれていて、複雑な心境ですね。次は、ちゃんと実力で1番獲りたいですね」と高橋。レースには勝って勝負には負けた--そんなレースだったでしょう。渡辺はピットに帰るなり涙を浮かべていましたが、ドタバタのスタート前、タイヤ交換の時間を過ぎちゃったスタッフだって悪くないし、もちろん渡辺は高橋を抑えきっての6位。落ち込むことはない、堂々と次のオートポリス大会に臨めばいいんです!
見ている僕らにとっては、これで、高橋vs渡辺の勝負がもうひとつ面白くなりましたね!
GP3はベテラン勢vs若手の勢力図に変化が…
アラフォーのベテラン勢と10代のヤングタイガーの図式が語られるJ-GP3クラスですが、この図式にちょっと変化があったのが2022年です。
昨年度チャンピオンの尾野弘樹(P.MU 7Cケイルスピード)が30歳、惜しくもランキング2位に終わった小室旭(サニーモトプランニング)が45歳、ランキング4位の徳留真紀(マルマエMTR)が51歳、ランキング5位の高杉奈緒子(チームNAOKO KTM)が44歳と、これがベテランの四天王だったものが、小室の現役引退で、ちょっとベテラン勢がひとコマ欠けてしまいました。
対するヤングタイガーは、木曜からのフリー走行でトップタイムを連発した木内尚汰(Teamプラスワン)が19歳、大和颯(やまと・しゅう Team Syuu)が18歳、小合真士(おごう・しんじ SDGモータースポーツジュニア)が16歳、彌榮 郡(みえ・ぐん マルマエwithクラブPARIS)が16歳、若松怜(わかまつ・れい BOWCSチームRei )が15歳などなど。もう、名前もキラキラっぽくて読めませんからルビ入れときました。
GP125クラスの時代から、全日本ロードレースの軽量級は、10代のヤングタイガーがベテラン勢の老獪なレースワークを乗り越えて強くなっていくクラスで、ここはベテラン勢がんばってー!な勢いなんです。
公式予選では、19歳木内がポールポジション、2番手に尾野、3番手に高杉のフロントローに、4番手に18歳大和、5番手に16歳小合、6番手に上原大輝(Teamプラスワン)。上原、今年25歳ですが、まわりのヤングタイガーに比べたらもはやお兄ちゃんだものね。
決勝レースでは、木内がホールショットを獲るかと思いきや、尾野が割って入ってレースをリード。オープニングラップからこの2人が3番手以下を引き離して、3番手以降に大和、高杉、彌榮、若松がつけます。
レースは先行する尾野、その後方にビタリとつける木内のトップ争いが続き、大和は早々と転倒して戦線離脱、彌榮、若松、高杉、上原、小合といったメンバー。その集団からやや遅れて、徳留、山本航(ライダースサロン横浜)、武中駿(バイクハウスゼロ& Shirakuwaken)、森 俊也(Teamプラスワン)らがグループを形成。ここでも、ヤングタイガーが徳留を追い詰めています。
トップ争いは、尾野に木内が肉薄する展開が続き、これは木内ちょっと抜けないかなぁ、それとも最後の最後にズバッと来るのか??と思っていたら、ラスト3周のダウンヒルでついに木内がトップに浮上! 尾野は再び抜き返すものの、木内はばんばん尾野をプッシュ! 今度は最終ラップの90度コーナーでパスし、そのままコントロールラインまで尾野を抑えきって優勝! 初優勝がポールtoウィンです!
「大ベテランの尾野さんを倒せてうれしいです! 本当は最初から逃げたかったけど、そうはさせてくれなくてませんでした」と木内。ずっと尾野にトップを走らせて、最後の最後にズバッと行くなんて、木内の方がまるでベテラン! 尾野、昨年には15歳年上の小室を、同じ風に料理して勝ち切っていたのに、今度は111歳下の木内にしてやられての完敗でした。もちろん、このままじゃ終わらんぞぉ。
ベテラン勢に襲い掛かる恐るべきヤングタイガー。J-GP3クラスも、21年までとはちょっと違うねー!という開幕戦となりました。
写真/木立 治 後藤 純 文責/中村浩史