トヨタとその子会社ウーブン・プラネット・ホールディングスは、先日手軽に「水素」を持ち運びできる、ポータブル水素カートリッジの試作品を公表しました。その広報リリースに掲載されたポータブル水素カートリッジの使用イメージ図を見ると、2輪FCVでの使用も想定していることがうかがえるのですが・・・。
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2022年6月3日に公開されたものを転載しています。

カタチ的には、電動スクーターなどの交換式バッテリーに似ていますね・・・

トヨタが静岡県裾野市に「Woven City」という、実証実験都市を建設しているのはニュースなどでご存知の方も多いと思います。今回発表されたポータブル水素カートリッジのプロトタイプは、水素が日々の生活で気軽に使用できるエネルギーなることを目標に、トヨタとウーブン・プラネットが開発しているものです。

画像: ポータブル水素カートリッジのプロトタイプ。今後、仕様やデザインの変更の可能性あるとのことで、質量目標(タンク満タンで5kg程度)はバルブ、プロテクター部を除いた値です。なお、用途に合わせ今後複数の種類を検討しているそうです。 global.toyota

ポータブル水素カートリッジのプロトタイプ。今後、仕様やデザインの変更の可能性あるとのことで、質量目標(タンク満タンで5kg程度)はバルブ、プロテクター部を除いた値です。なお、用途に合わせ今後複数の種類を検討しているそうです。

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風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーを用いた水素は「グリーン水素」と呼ばれ、グリーン水素は利用時、製造時にCO2排出を抑えられる、地球にやさしいエネルギーとしてその将来性を期待されています。電気同様に二次エネルギーなので、製造時に電気を使うことによる効率の問題はあるものの、燃料電池システムと組み合わせて利用するだけでなく、燃焼させての利用も可能な点が大きな特長です。

トヨタとウーブン・プラネットはWoven Cityおよびその近郊エリアで、水素のサプライチェーンの実証をエネルギー大手企業のENEOSとともに行う予定ですが、パイプライン不要で水素を簡単に運搬できるポータブル水素カートリッジには、一連の実証実験のなかでさまざまな場面での活躍が期待されることになるのでしょう。

画像: ポータブル水素カートリッジのプロトタイプの形状は円柱で、直径約180mm、全長約400mというサイズです。カートリッジ型なので交換は容易で、そして小規模インフラで対応可能なので、災害時や未電化地域へのエネルギー供給の用途にも優れているといえるでしょう。 global.toyota

ポータブル水素カートリッジのプロトタイプの形状は円柱で、直径約180mm、全長約400mというサイズです。カートリッジ型なので交換は容易で、そして小規模インフラで対応可能なので、災害時や未電化地域へのエネルギー供給の用途にも優れているといえるでしょう。

global.toyota

ポータブル水素カートリッジのプロトタイプの写真を見てみると、空のカートリッジを水素充填ステーションに差し込んで、充填済みのカートリッジを取り出して交換する・・・ことを利用方法としてイメージしていることがうかがえます。

考え方としては、台湾のGogoroやアイオネックス(キムコ)、そしてホンダのモバイルパワーパックなどの、主に電動スクーターに使う交換式リチウムイオンバッテリーのシステムに似ている・・・といえるでしょう。

画像: 台湾のGogoroは、電動スクーター用の交換式バッテリーステーションシステムの先駆であり、業界をリードする存在です。高価なリチウムイオン交換式動力用バッテリーをサブスクリプション化。ユーザーは街の各所に配置された交換ステーションを使うことで、電池切れの心配なく移動を楽しむことができます。 www.gogoro.com

台湾のGogoroは、電動スクーター用の交換式バッテリーステーションシステムの先駆であり、業界をリードする存在です。高価なリチウムイオン交換式動力用バッテリーをサブスクリプション化。ユーザーは街の各所に配置された交換ステーションを使うことで、電池切れの心配なく移動を楽しむことができます。

www.gogoro.com

カートリッジが普及すれば、2輪FCVの普及も期待することができるでしょう!?

現在、2輪業界のカーボンニュートラルへの取り組みとしては、電動化が都市部での利用の多いスクーターを中心に進んでいます。カワサキやヤマハは水素を燃料としたICE(内燃機関)を開発していることを公表していますが、ガソリン用燃料タンクに比べ4倍ほどのサイズの水素タンクが必要になるなどの技術的課題から、水素ICEのモーターサイクルを作るのはなかなか難しい取り組みではあります。

一方、自動車への水素の利用法としてポピュラーなFC(燃料電池)については、過去にヤマハやスズキがそれぞれメタノールと水素のFCV試作車を公開しており、ナンバーを所得して公道で運用した実績も残しています。トヨタとウーブン・プラネットが開発していることを公表したポータブル水素カートリッジの、その使用イメージのなかには2輪車の姿もありますが、これはFCVとしての活用をイメージするものと思われます。

画像: ポータブル水素カートリッジの使用イメージ図。ドローンの動力源、マイクロカーの動力源、ポータブル電源および熱源用途、オフグリッドホームでの利用、そして2輪車の動力源としての活用が描かれています。 global.toyota

ポータブル水素カートリッジの使用イメージ図。ドローンの動力源、マイクロカーの動力源、ポータブル電源および熱源用途、オフグリッドホームでの利用、そして2輪車の動力源としての活用が描かれています。

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ちなみに今回公表されたポータブル水素カートリッジのプロトタイプは、一般的なFCシステムで発電する場合、1本あたりで一般的な家庭用電子レンジを約3〜4時間運転できる電力量を想定しているそうです。また今後検討する高圧水素タンクの前提で、約3.3kWh/本の電力量を想定しているとのことです。

約3.3kWhを実現したポータブル水素カートリッジを1〜2本使うことで、2輪FCVの実用化は十分可能と思われます。もちろんそれは、台湾を中心に普及しているバッテリー交換ステーションみたいに、いつでもどこでもカートリッジ交換が可能なインフラが実現していることが前提にはなりますが・・・。

ただ先述のとおり、効率の問題を考慮すれば一貫して電池の電力を使うEVの方が、2輪の特性・用途には適した方式と言えるでしょう。また現在の技術レベルでは水素は燃料としては高価なので、そのことも2輪FCVを普及させることの弱点になります。

ただ長い目で見た場合・・・各地の街で水素のサプライチェーンとインフラが許容可能なコストで広く普及したときには、ポータブル水素カートリッジを活用した2輪車が人々の暮らしに役立っている未来が訪れているのかもしれません。電動化同様、2輪の水素活用の今後にも、注目し続けたいです!

文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)

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