英国の歴史あるブランドであるノートンが、6月22日にAPCの資金を使って電動バイク開発を開始することを公表しました。このプロジェクトはノートンだけではなく、英国の企業数社や研究機関も関与。来る電動時代に備えて英国のEV技術とサプライチェーンを強化する意図が、このプロジェクトの背景にはあるようです。
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2022年6月27日に公開されたものを転載しています。

2013年に、英自動車業界と英政府のジョイントベンチャーとして誕生したAPC

そもそもAPCとは何ぞや? ですが、このNPO(非営利組織)は英自動車業界と英政府が、「未来の自動車のための技術の研究、開発、商業化」を目的に2013年に設立したものです。APCはアドバンスド プロパルション センター(先進推進センター)の略であり、当時の英政権の自動車産業戦略の一環として生み出されることになりました。

APCの役目は、低炭素排出パワートレイン技術を開発する英国に本拠を置く研究開発プロジェクトへの資金提供を促進させることであり、英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)傘下のイノベートUK(技術戦略委員会)が管理する投資ファンドを、APCは運営しています。

画像: 英自動車産業の聖地であるバーミンガムの南、ソリフルにあるノートンモーターサイクル本社。 www.nortonmotorcycles.com

英自動車産業の聖地であるバーミンガムの南、ソリフルにあるノートンモーターサイクル本社。

www.nortonmotorcycles.com

前CEOの不祥事により瓦解したノートンが、インドのTVSモーターに買収されたのが2020年のこと。現在は新CEOのロバート・ヘンシェル博士の指揮で、V4SV、V4CR、そしてコマンド961などのICE(内燃機関)搭載モデルを開発しているノートンですが、APCからの資金調達によって今後は「電動化」というもうひとつの道をノートンは開拓していくことになるのでしょう。

ロバート・ヘンシェル博士(ノートンモーターサイクルズCEO)
「この重要な資金投入は、私たちの電動化の旅の始まりであり、10年間の製品計画を達成するもので、ブランドにとって記念すべきマイルストーンとなります。ノートンは、モダンラグジュアリーの模範であり、現状を打破することを恐れず、英国の伝統に忠実でありながら、モビリティの未来のために革新的であります。また、自動車のネット・ゼロの未来に向けた英国のミッションをサポートしたいという私たちの願いにも焦点が当てられています。世界トップクラスのパートナーと協力し、ノートンのゼロエミッション・プロジェクトは従来のモーターサイクルと電気モーターサイクルの間にある現在の争いをなくし、ライダーが望むEV製品、つまりノートンの妥協しないデザインDNAとレースパフォーマンス、ツーリングレンジ、軽量ハンドリングを融合したモーターサイクルを生み出すことができると確信しています。

画像: TVSモーターによる買収後、再設計を受けて、初めて本社生産ラインからロールオフして一般販売されることになったノートンV4SVに跨る、ノートンCEOのR.ヘンシェル博士。なおAPC資金調達による電動車開発のプレスリリース公開と同日の6月22日に、V4SVの予約受付を開始したことがアナウンスされています。 www.nortonmotorcycles.com

TVSモーターによる買収後、再設計を受けて、初めて本社生産ラインからロールオフして一般販売されることになったノートンV4SVに跨る、ノートンCEOのR.ヘンシェル博士。なおAPC資金調達による電動車開発のプレスリリース公開と同日の6月22日に、V4SVの予約受付を開始したことがアナウンスされています。

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どのような電動モデルがノートンから登場するのか? 続報を待ちましょう!

ノートンのゼロエミッション・プロジェクトには、複数の企業・研究機関が参画する予定とのことです。デルタ・コスワース社はバッテリーパック設計、ハイスピード・リミテッド社はモーター設計および製造技術を提供。フォーマプレックス・テクノロジーズ社は精密複合材料製造、M&Iマテリアルズ社は誘電冷却油の専門知識で、プロジェクトをサポート。そしてINDRAは車両への家庭からの充電技術を担当しています。

興味深いのは、プロジェクトに参画するWMG(ウォーリック大学)の存在です。既報のとおり、WMGでは学生13名で構成された「ウォーリック・モト」が電動バイクを開発しており、そして2021年にノートンは「ウォーリック・モト」への協力を公表していました。ちなみにAPCの本部はコベントリーの、ウォーリック大学内にあります。

画像: マン島TTにて、ゼロエミッション車が競い合う「TTゼロ」クラス参戦を目標に、開発されているWMGのウォーリック・モトの「フロンティア」。開発当初はホンダ・ファイアーブレードのシャシーをベースに用いていましたが、2020年10月からノートン製シャシーを採用するようになりました。 warwick.ac.uk

マン島TTにて、ゼロエミッション車が競い合う「TTゼロ」クラス参戦を目標に、開発されているWMGのウォーリック・モトの「フロンティア」。開発当初はホンダ・ファイアーブレードのシャシーをベースに用いていましたが、2020年10月からノートン製シャシーを採用するようになりました。

warwick.ac.uk

イアン・コンスタンス(APC最高責任者)
「本日投資を受けたプロジェクトは、英国がネットゼロエミッションを加速させるために必要な技術の幅広さを強調しています。これらのプロジェクトは車両だけでなく、交通輸送全般を見直すものです。ノートンは、誇り高い歴史を持つ、英国を代表するブランドです。オートバイ製造による第二次世界大戦の支援、そして世界初の量産型スーパーバイク開発をしました。彼らは今、英国の製造拠点から性能と航続距離を両立する電動バイクを送り出し、高度な技能を要する雇用とグリーン成長を強化するという未来を見据えているのです」

世界で最も電動化に熱心な欧州エリアが、重要な商圏のひとつであるノートンにとって、将来の電動化は避けることのできないひとつの道筋といえます。また英政府と英自動車業界がAPCを生み出したことが示すとおり、電動化は英国の経済成長と雇用の増加への大きなチャンスという認識を彼らが持っているのでしょう。

ノートンのゼロエミッション・プロジェクトは、その意図を実現するために支援されたプロジェクトのひとつということなのですが、そういう国の思惑はさておき? どんな電動車をノートンが完成させることになるのか・・・が、一番気になりますね。そのプロトタイプが公開されるのはいつのことになるのか定かではありませんが、その日を楽しみに待ちたいです。

文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)

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