ラッキー!台風直撃回避!
アッという間に梅雨明けしたり、6月から全国各地で史上最高気温を更新したりと、なんだか騒がしい2022年の夏ですが、今年はいよいよ3年ぶりの鈴鹿8時間耐久ロードレースが開催されます。
この7月5~6日には、鈴鹿サーキットで合同公開テスト! こういう事前テストがあると、いよいよ8耐が始まるんだなぁ、ってシミジミしちゃいますが、8月7日の決勝日まで、あとちょうど1か月なんですね!
わたくし事ですが、こういうレース取材はじめてン10年になると、もう夏の体内時計が「8耐」を中心に回っていて、梅雨明けは8耐の1週間前、それから猛暑になって、7月最終週に8耐が終わり、8月中旬には真夏が明ける、と。だから梅雨明けしたのにまだまだ8耐が開催されない2022年はちょっと体内時計が狂っちゃってます。
そしてこの事前テスト、台風ド直撃の予報が出ていて、月曜の搬入日には、ほぼ全チームが雨テストを覚悟していたというのに、明けて火曜の午前中に少し降ったものの、水曜午後までガツンと晴れて、火曜夕方にはパラパラッと来つつ、火曜午前にウェット→ハーフウェットテスト、午後からは気温30℃超えの完全ドライテストができて、各チームともかえって有意義なテストができたみたい。
初日の火曜は、朝から45分が2回、75分が1回、それに夜間走行1回、A/Bの2グループに分かれてのテストでした。そして水曜は80分の走行がA/B分かれて各2回、計4回。つまり各チームとも、2日間で7時間半、走れるというわけです。惜しい、あと30分で8時間なのに(笑)。
この時期のテストっていうのは、まずはメンバーの初顔合わせがメインだったり、ライダーの走り込みがメインだったり、とチームによってそれぞれ。それでも、ガチで優勝を狙ってくるチームは、もう明日に決勝レースがあっても大丈夫、ってくらいの準備は整っていて、あとは決勝への実際のテスト、不意のケースへの対応がメインです。これはもう、そう言い切ってもいい、それくらい耐久レースっていうのは「準備」が大事なんです。
実際のテスト、っていうのは、タイヤ選びとラップタイムごとの燃費計算がメイン。タイヤ選びっていうのは、もちろん8耐決勝日にならないと本当のところはわからないわけですが、気温×℃/路面温度×℃で、×分×秒ペースで走行すると×周目くらいにグリップダウン、×周目にはもうずるずる、なんてテストをほぼほぼしておいて、あとは8耐ウィークになってから、木曜のフリー走行からタイヤメーカーさんと打ち合わせして決勝レースへ、っていうパターンですね。
ラップタイムごとの燃費計算は、各チームとも、よっぽどの新チームでなければ、×分×秒ペースで走ると25周したら×リッター必要、っていう基礎データを持っているものですが、それがこの真夏の気温と湿度でどう変わるか、っていうテストです。
さらにトップチームになると、雨でもきちんとコースに出て、ウェット路面2分30秒ラップでの燃費とか、ハーフウェット路面で2分15秒ラップしてのタイヤの消耗具合、なんてテストもやってあるはずです。
それにドライ路面でも、周回遅れをかわしてかわしての2分10秒と、クリアラップの2分6秒の時は燃費もタイヤの消耗も変わってきますから、その現実に起こりうるパターンをすべてテストしておくのが勝利への絶対条件、いや最低条件なのです。
例えばドライ路面で走っていて、セーフティカーが介入してラップタイムが3分00秒になると仮定して、その時の燃費、そのラップタイムで×周したらタイヤ温度が×℃下がる、なんてところまでテストしているチームもあるはずです。
今大会でいえば、前回優勝のカワサキレーシングチーム(KRT)をはじめ、世界耐久チャンピオンチームであるヨシムラSERT MOTUL、世界耐久レギュラーのTSRホンダフランス、YARTヤマハあたりは積極的にタイムを上下させてテストしていたし、それは久しぶりに日本登場のHRCもしかり。
さらに、このあたりのテストの意味をよーく知っている全日本チームを主体とした8耐チームも、コツコツもくもくとテストをしていました。
テスト結果は、ウェットの1回目走行でTOHOレーシングが、2回目で桜井ホンダがトップタイム、ドライ走行となった2回目にはHRC、KRT、ヨシムラSERT、桜井ホンダが上位タイムをマーク。3回目にはYARTがトップタイム。もう、この顔ぶれがそのまま8耐本番でも上位争いをすることが目に見えていますね。そして夜間走行では、KRT→YART→ヨシムラの順がトップ3タイム。もう、この3チームは決して自分たちではそう言わないでしょうが、準備万端でしょう! もちろん、どんなアクシデントがあるかわからないのが耐久レースですからね!
ちなみに2日目午後の走行、KRTのエース、ジョナサン・レイは、この2日間でいちばん暑かった時間帯に、きっちり1時間走り切ってました! 単独で走り、時にはスローペースのライダーを抜き、完全に決勝レースを想定した走りを1時間。それを迎えたピットも、本番のようにピット作業を済ませて、レイ走行終了。これ、HRCの高橋巧もやってました!
これで公式事前テストは終了。鈴鹿サーキットでの事前テストは禁止され、あとは決勝レースウィークの火曜/水曜にフリー走行があって、このへんで今回テストに来られなかったチームが走行、そして金曜から公式スケジュールが始まるわけです。
テストが終わったチームは、この2日間の走行データを持ち帰って、レース戦略を練る期間が始まるわけですね。これは、まず決勝周回数を決めておいて「逆算」で周回ラップタイム目標を決めていくのが一般的で、以下のような計算式をベースに、状況に応じた変化を加えていくわけです。
まず周回数を「××周」に設定。8スティント=7回ピットのタイムロスを引いて、ピットイン&アウトラップのラップタイムロス分、フレッシュタイヤで走行するタイムロス分を引いてベースの計算式が出来上がります。もちろん、8回ピット、9スティントってチームもあります。
例えば! 200周回を目標にすると、8時間=480分=2万8800秒。ピットイン→ピット作業→ピットアウトで約6~7分ロスするといわれていますから、これが7回ピット分で7×7=49分、480分-49分=431分、この430分で200周すると(まず200周から7回分のピットイン&アウトの14周を引いて186周ですね)。
430(分)×60=2万5800秒÷186(周)=138.7(秒)、つまり「2分18秒7」が目標ラップタイム、ということになります。もちろん、これはざっくりした計算で、本来ならもっとロスタイムを引き算していかなきゃいけないんですが、もう少し細かく計算し、以前にWebオートバイに掲載したのが↓のリンク。これを掲載した当時、あるメーカーのレースグループから「よく計算できてる」とホメられたやつです(←ちょっと自慢・笑)
2017年掲載 「8耐勝利の方程式」→ https://www.autoby.jp/_ct/17103992
事前の準備をして、レースシミュレーションをして、決勝レース中には不確定要素を計算式に反映しながら目標周回数やタイムを刻々と変化させていくのが耐久レース。鈴鹿8耐だってこんなに大変なのに、これが24時間耐久なら3倍のシミュレーションで計算しなくちゃいけなくて、それを年に3回もやる--あぁ耐久ってめんどくさい!でも、だから面白い!
写真/木立 治 後藤 純 文/中村浩史