※本企画はHeritage&Legends 2021年4月号に掲載されたものです。
サイドカムチェーンというレイアウトの大きな利点
対称デザインには、多くの面で利点がある。見た目にも構造的にも安定していて、空冷エンジンなら左右での冷却性も近しくできるし、各パーツへの作り方や負担も、左右で似たようになる。直列4気筒エンジンでカムチェーンを4気筒の中央に置くのは、カムシャフトを引く力が左右方向に無理なく均等にかかるから構造上有利。カムチェーントンネルも中央だから各部に干渉しにくい……。
4気筒ビッグバイクが空冷ZとCBで成立した次の時代となる’80年代に入ると、高性能化も目指して水冷が採り入れられる。そこにカワサキは、新たなる旗艦・GPZ900Rのエンジンに、左サイドカムチェーンレイアウトを採用した。カムチェーントンネルを左端に置く。前述のような見た目も重視していた2輪では、考えにくかった形。でも水冷でフルカウルだから対称性は気にしない。ただここに対しては、カワサキはエンジンのカムチェーン側=左側のカウルから見える部分に「DOHC 16-VALVE」の文字と3本のフィンを刻んで、ハイパフォーマンスを視覚的にアピールしてフォローした。
長く発展させて使えるように。その上で、エンジンが大きくなり過ぎないように。冷却水を回すスペースも要るから、効率は高めておきたい。そこで採用されたのが、カムチェーンを端に置くこと。すると4つのシリンダーのピッチが均等にできる。これでキャブレターから吸気ポート、燃焼室、排気ポートへの流れが直線にでき、出力と効率に対しては有利になる。
通路を曲げなくて済むから、エンジン幅が抑えられるし、前後長も短くできる。コンパクトなエンジンは搭載の自由度が上がり、フレームがコンパクトにできる。バンク角も抑えて、乗るライダーへの干渉も抑えられる。
他社がリッターモデルで水冷・油冷化したため、908ccは不足と思われたが115ps、リッター130ps近くの数値は、当時として破格だったから、すぐに後継につなげられた。先代Zで成功したスープアップの余力があったから、メーカー・カワサキ自身が発展・拡大を行ってパフォーマンス、それだけでなく汎用性をも高めた。排気量=ボアやストロークだけでなく、後にはロッカーアームやバルブスプリングの数を変えたり、ダウンドラフトの導入、もう1度サイドドラフト化するなどで改良。
その結果、初代GPZ-Rから最終ZRX1200DAEGまで、系列内で高い互換性を維持するという他に類を見ないシリーズとなり、各車だけでなく、シリーズとして多くのファンを惹き付けた。今後出ることはないだろう不世出のシリーズとして、改めて楽しみ尽くしたいエンジンなのだ。
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主なGPZ-R系列カワサキ左サイドカムチェーン車エンジンのスペック
シリンダーヘッド側マウントはGPZ-Rにのみに用意される
GPZ-Rではダイヤモンドフレームに後ろから吊るようにエンジンを積むため、シリンダーヘッド前左右にエンジンマウントボスがある(1)。こことクランクケース前(2)、同後ろ側上下(3)でフレームに締結した。これがGPZ1000RX以降ZRX1200DAEGまではヘッド部マウントはなく(4と、5の全景写真でも分かる)、部分を別体または一体のダウンチューブに締結している点も知っておきたい。
主にヘッド部で効率を高め全体の基本は継承されていた
比較表にも記しているが、系列エンジンで差異が見られるのは、排気量拡大にともなうボア/ストローク、シリンダーのめっき化(1200系の1164cc全車)、そしてシリンダーヘッドまわり(表ではバルブ駆動として表記)。GPZ900R/1000RXでは2バルブ1ロッカー(2本のバルブを1個のY字状ロッカーアームで押す)で、バルブとロッカーアームのクリアランスをネジで調整。ZX-10からは1本のバルブを1個のフィンガー状ロッカーで押す1バルブ1ロッカーとなり、クリアランスはシムで調整するようにし、正確性も高めた。