文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2022年9月5日に公開されたものを転載しています。
ところで、サイド・バイ・サイドってなんじゃらほい?
とりわけ海外市場で人気が高い4輪ATV(全地形車両)ですが、日本ではあまりサイド・バイ・サイドというカテゴリーのことを知らない方が多いと思います。そもそもATVは、多くのオートバイメーカーが手がけてきたという歴史的背景もあってか、モーターサイクル的なバーハンドルとシートを備えるモデルが主です。
一方サイド・バイ・サイドは、バーハンドルの代わりにクルマ的な丸ハンドル、そして最低ふたつの並んだ乗員シートが備わっています。操縦感覚的にも、モーターサイクルよりもクルマに近い乗り物・・・といえるでしょう。
今回カワサキがモビリティリゾートもてぎでのスーパー耐久シリーズ戦の場で、デモ走行を披露した水素エンジン搭載の研究用オフロード4輪車は、カワサキが米国市場などで販売しているサイド・バイ・サイドの人気商品、「TERYX KRX 」をベースに製作されたものです。
日本の底力を、水素エンジンの分野で発揮してほしいですね!
この研究用オフロード車に搭載されているエンジンは、カワサキのNinja H2用の過給器(スーパーチャージャー)付き998cc水冷並列4気筒DOHC4バルブをベースにするものです。水素を使う燃料系は、気筒内直接噴射仕様になっています。
なおカワサキの説明によるとこの研究用オフロード4輪車は、サイド・バイ・サイドのTERYX KRXをベースに水素内燃機関を搭載するにあたり、水素燃料タンクや燃料供給系統を設置するため大幅なレイアウト変更を行ったとのことです。
2&4用のICEや、航空機用ジェットエンジンで、ガソリンや航空機燃料の代わりに水素を使った場合、水素燃料に求められるタンク容量はおおよそ4倍のサイズになるといわれています。燃料タンクのサイズは、モーターサイクルに水素ICEを採用する場合、克服すべき大きな技術的課題のひとつになります。一方、モーターサイクルより車格が大きいサイド・バイ・サイドであれば、水素燃料タンク容量問題については、モーターサイクルよりは少しシビアではなくなるのかもしれません?
今回登場した研究用オフロード車の車体側面には、カワサキ、スズキ、ホンダ、ヤマハの2輪4メーカーのほか、4輪のリーディングカンパニーであるトヨタ、サプライヤー大手のデンソー、そして国立研究開発法人であるAIST=産総研(産業技術総合研究所)の名が記されています。
今後この研究車両は水素ICE開発に取り組む、メーカーおよび官民の枠を超えたプロジェクトに活用され、カーボンニュートラルの実現に向けた "2輪車など小型モビリティ用水素燃料エンジン"の研究用素材のひとつとして活用されていく・・・予定とのことです。
ATVやサイド・バイ・サイドは、2輪車同様にメーカーにとっては大事な商品です。もしカーボンニュートラル時代に「水素社会」を実現させるとしたら、インフラ普及やコスト削減のことなどのスケールメリット的にも、水素を使うプロダクツの数はひとつでも多いに越したことはありません。その点では、水素エンジン搭載モデルとしてのATVおよびサイド・バイ・サイドの開発は、水素エンジン搭載2輪車と一緒に進めるのがベストな選択です。
正直なところ現時点では、"2輪車など小型モビリティ"には"EV"が最適解!! というのが世の趨勢(すうせい)ですが、ICEファン的には地球環境のためには来るべきカーボンニュートラルの時代になっても、ICEを楽しみたいというのが、嘘偽りのない心情でしょう。水素ICE開発に取り組むプロジェクトの、今後の発展に期待したいです!
・・・余談ですけど、今年度のMotoGPでの活躍などで目覚ましい活躍をしているドゥカティの、CEOであるクラウディオ・ドメニカリも水素燃料を使ったICEを選択肢のひとつとして興味深くみているみたいですから・・・日本国内のメーカーおよび官民の枠だけではなくて、"国境"を超えての大連立的なパートナーシップにも期待したいですね(※妄想含めて?)。
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)