大型スポーツバイク=並列4気筒エンジン、という定番に一撃。2016年に全面新設計の並列3気筒エンジンを投入したヤマハ。MT-09として登場したニューモデルはXSR、トレーサーというバリエーションを生んで大ヒット! 2022年モデルとしてフルモデルチェンジしたMT­-09に合わせてXSR900もフルモデルチェンジ。ヤマハの考える「ヘリテイジ」の真の姿が見えてきた。
文:中村浩史/写真:折原弘之
画像2: ヤマハ「XSR900」歴史解説・インプレ(中村浩史)

電脳化したXSRはもうひとつ先の領域へ

現行XSRはまず、ベースとなったMT-09と同じく、エンジン排気量を845ccから888ccへとアップ。これにより、先代モデルで116PSだった最高出力が、120PSへとアップ。とはいえ、ここは数字上のパワーアップよりも、より洗練されてスムーズな回転フィーリングになったのが印象的な変更ポイントです。

さらに、電子制御スロットルとIMU(イナーシャ・メジャーメント・ユニット=車体姿勢検知センサー)を搭載したことで、よりライディングアシストを強めています。

まず気づいたのは、従来のシフトアップに加えて、シフトダウン方向も有効になったクイックシフター。これは、なにもサーキット専用の装備ではなく、ストリートやツーリングでも効果が大きい、これからのスポーツバイクに標準装備してほしいアイテム。しかも、シフトアップ&ダウンのキレも良く動作もさらに正確になりました。

従来も搭載されていたパワーセレクターD-MODEは3種類から4種類へと調整幅を増やし、クルーズコントロールも追加。ニューXSRは、クイックシフターとクルーズコントロールで、走りがよりイージーに、快適さを増していますね。

アクセルを開けた状態で固定しなくてもいいクルーズコントロールは、4速50km/hからセットでき、左ハンドルスイッチのプラス/マイナスボタンで2km刻みにスピードを設定できます。最低で50km/hにセットできますが、そこからマイナスボタンで45km/hまで設定でき、一般道でもセットできるほど。もちろん、クルーズコントロールは一般道で使うシステムではありませんが、それほどイージーなライディングが可能なのです。

さらに追加された電子制御の機能は①バンク角検知のトラクションコントロール②旋回性をコントロールするスライドコントロール③アンチウィリーことリフトコントロール④コーナリング時にも最適な介入をするブレーキコントロールなど。

IMUを搭載したことで、すべての制御は、単なる「現象」ではなく、車両の姿勢を検知した「状態」での介入になりました。たとえばトラクションコントロールやABSは、単に前後輪のスリップ率変化だけを見るのではなく、いまバイクが直進しているのか、コーナリング中なのかまで検知して介入するシステムとなっています。

とはいえXSRは、そういった電子制御を積極的に使うのではなく、行き過ぎたアクションを補正する用途に効力を発揮させるものだと考えます。積極的に制御を使って速く走りたいならYZF-R1へ! XSRの電子制御は、安全に快適に走るための装備だと考えたいです。

画像3: ヤマハ「XSR900」歴史解説・インプレ(中村浩史)

さらに大きな変更となったのが車体まわり。特にメインフレームが一新され、剛性バランスを大きく変えた車体と、スイングアームを新設計したことで、先代とは大きくハンドリングの印象を変えています。

パッと乗り始めてすぐに、先代よりもしっとりと前後の接地感を高めているのがわかります。とはいえ、決して反応が鈍くなったのではなく、直進安定性が上がり、ライダーの入力でサッと動く車体──これは本来、両立が難しいテイストなんですが、この手応えは現行MT-09よりハッキリと落ち着いた特性で、これは初期モデルのMTとXSRの棲み分けをきちんと踏襲しているな、という感じです。

それでも888ccのモデルと考えればXSR(もMTも)かなりフットワークが軽快で、乗り手のスキルを問わない、懐の広いモデルに仕上がっています。これが、ヤマハが狙っているヘリテイジスポーツなのでしょう。

スタイリングは、先代よりもグッとヤンチャに、メインフレームの露出具合から、フルカウルモデルからカウルをはぎ取ったようなワイルドさに仕上でられています。XSRが、新しい領域に踏み出したようです。

画像4: ヤマハ「XSR900」歴史解説・インプレ(中村浩史)

ストリートも峠でもスキのない完成度の高さ

現行XSRで走っていると、先代モデルよりさらに走りがワイドレンジに、行動範囲をさらに広げてくれるような印象がありました。

走り出してすぐにわかるのは、相変わらずアイドリングすぐ上からトルクが出ていて、回転上昇がシャープなこと。ただし、シャキシャキ走りたくない、ダラッと走りたい時には、パワーモードをフルパワー「1」から変更するか、スパスパと気持ちよくシフトワークが決まるクイックシフターでシフトアップしていくのが正解。

パワーバンドといえるほどの過渡領域があるわけではありませんが、5000回転あたりからグンと力を増してきます。この領域も先代モデルよりもハッキリ力強い。ただし、このパワーを扱いやすく、マイルドに路面に伝えているのも、電子制御メカニズムの成熟なのだと思います。

少し勢いをつけてワインディングを走ってみても、意識して大きくアクセルを開けてみても、XSRはビクともしません。時にリアタイヤが滑り出す手応えがあっても、トラクションコントロールがこともなげに処理してくれる、そんな頼もしさ。ワインディングを不安なく走れてしまうのも、YZF-R1にはない、XSRのキャラクターなのだと思います。

さらにクルージングの快適さは大きくレベルアップしています。これは、クイックシフトとクルーズコントロールの効果が大きく、フレームや足回りの変更が、ピタッと路面に吸い付くような安定性を味わせてくれます。

6速3900回転でのクルージングが100km/hあたり。この時、XSRは走行風に負けず、路面の凹凸をきれいにいなして、快適なクルージングをかなえてくれます。先代のXSRとも、現行MTともまたちがう、XSR独自の世界は、これがヤマハの考えるオーセンティックスポーツ。

XSR、完成度にスキなし!

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