文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2022年12月23日に公開されたものを転載しています。
1977年までさかのぼる、スズキとV&Hの協力関係
スズキとV&Hの協力関係は、1977年からスタートしました。スズキは自信作である4ストロークのGSシリーズのプロモーションを兼ねて、ファクトリー体制でのドラッグ・レーシング活動を行うことを計画していたのです。V&Hの共同創設者であるテリー・バンスをライダーに、バイロン・ハインズをチューナーとして起用したことが功を奏し、このコラボは数々の勝利とチャンピオンシップを手中におさめることになりました。
2輪ドラッグレースの最速クラスは、スーパーチャージャーや特殊なニトロメタン燃料を用い、高出力を発生させるマシンを使うトップフューエルであり、1970年代に同クラスは花形クラスとしての高い人気を誇っていました。一方、かつてPSB=プロストックバイクと呼ばれていたPSMクラスは、NHRA初開催が1977年と遅く、賞金もゼロという、当時はトップフューエルに比べると非常に扱いの軽いクラスでした。
しかし、トップフューエルよりも外観が市販量産車に近く、一般のバイクファンが感情移入しやすいPSMクラスの人気は次第に高まることとなります(ロードレースのF750と、スーパーバイクの歴史・・・をイメージさせますね?)。そして1980年代に入ると、V&Hスズキを駆るT.バンスのようなスター選手の活躍が、人気上昇という傾向に拍車をかけることになりました。
そんなPSMクラス人気の高まりを受け、NHRAは1965年から始めた「NHRA キャンピング ワールド ドラッグ レーシング シリーズ」に、1987年からPSMクラスを組み込むことを決めました。これはそれまでの間、4輪のトップフューエル、ファニーカー、そしてプロストックの3部門のみで行っていたシリーズに、初めて2輪クラスを追加するという快挙だったのです。
記念すべき初年度の1987年、T.バンスはスズキGS1150Eでゲインズビルで開催された初のPSMクラスのレースに勝利。同シーズン後半には、7秒台のエリミネーションタイム(402.33m到達タイム)という、PSMクラスの初記録を達成! そしてバイロンの息子であるマット・ハインズによるNHRA3連覇(1997〜1999年)を含め、V&Hが手がけたスズキ4気筒エンジンを搭載するドラッグレーサーは、これまで7つのNHRAタイトルを獲得しています。
1998年以来の「2バルブ」から新たに「4バルブ」を採用!
V&Hは21世紀に入ってから約20年間にわたり、ハーレーダビットソンのNHRAドラッグレース・ファクトリー活動に協力していました。そしてそのパートナーシップは2020年シーズンで終了することになるのですが、V&Hは2021年からスズキ4気筒エンジンを使ってNHRAのPSMクラスに参戦。スズキとV&Hという、PSMにおけるかつての黄金タッグが復活することになりました。
ハーレー時代といえる約20年の間も、V&Hはスズキ4気筒エンジンを使うPSMクラス参戦ライダーたちのために、V&H製コンポーネントを供給していました。2002年のルール変更で、4気筒より排気量の大きい、専用VツインエンジンがPSMクラスで使えるようになったことで、過去20年間のPSMクラスではアメリカンブランドの、専用ビレット(削り出し)Vツインエンジン搭載車の活躍が目立つようになったのですが、スズキユーザーたちは依然として旧型クランクケースを使用する、2バルブのGS系4気筒を使い続けていました。
NHRAはVツインとスズキ4気筒のPSMクラスでの戦力均衡を保つため、過去20年の間、排気量、バルブ数、車重などなどを調整するルール改訂を幾度も細かく行ってきました。これら戦力均衡策は改訂のたびに議論を巻き起こすことになりましたが、おおむねうまくいっている?・・・ともいえるでしょう。
ただスズキモーターUSAは、2000年代からVツイン勢のように最新技術を盛り込むことが可能な、専用ビレットエンジンをPSMクラスで使えるようにしてほしい、とNHRAに求めていました。そしてスズキはDSR(ドン・シューマッハ・レーシング)と組んで、ハヤブサベースの4バルブPSMクラス用エンジンを開発しましたが、結局このプロジェクトは実りの少ないまま終わりました。
専用ビレットVツインエンジンを作ってPSMクラスに参戦する一方で、長年スズキユーザーのために4気筒エンジンを供給していたV&Hは、DSRとは別に新たなスズキ4バルブ4気筒の開発を2010年代に進めていました。そしてCOVID-19パンデミックの影響などでその完成は後ろにズレ込むことになりましたが、ついに2021年2月にV&H製新型スズキ4バルブ4気筒が発表されることになったのです。
VHIL 18504Vのデザインクレジットは、6度のNHRA王者に輝いたアンドリュー・ハインズで、2019年10月からV&Hはこのプロジェクトに取り組んでいました。400馬力近くの最高出力を稼ぎ出す潜在能力の秘密は高回転化にあり、DOHC4バルブは直打式(シム・アンダー・バケット)ではなく、フィンガースタイルのカムフォロワーを採用しています。
2021年シーズンから、V&Hとスズキが再び手を結んで参戦!
2021年シーズンのPSMクラス、V&Hスズキのファクトリーライダーに起用されたのは、3度のNHRA王者に輝いた女傑アンジェル・サンペイ、同4度の王者であるエディ・クラヴィエック、そして同6度王者のアンドリュー・ハインズという、豪華なメンバーでした。
2021年シーズンのPSMクラスは、ビューエルVツインを駆るマット・スミスが王者となり、2勝をあげたA.サンペイはランキング2位、そしてE.クラヴィエックが同4位、A.ハインズが同9位という結果に終わりました。そしてスズキ4バルブ2年目となる2022年シーズンは、「V&H/ミッションスズキ」というファクトリーチーム体制となり、A.ハインズがチーム監督に就任。A.サンペイとE.クラヴィエックの両名を強力にサポートする・・・ことになりました。
来季こそ、打倒Vツインを果たせるか? 2023年の戦いに注目しましょう
11月のベテランズデイの週のポモナが、今シーズンのPSMクラス最終戦となりましたが、優勝したのはアンジー・スミス(ビューエル)でした。そしてタイトルを獲得したのは、2020年から3連覇となったM.スミス(ビューエル、2610点)。スズキ勢ではJ.グラッドストンが2位で最上位(2528ポ点)。V&H ミッションスズキチームの両名は、A.サンペイが6位(2353点)、E.クラヴィエックが7位(2306点)にとどまりました。
8月15日の第9戦トペカ終了時点では、PSMクラスのランキングは首位J.グラッドストン(724点)、2位A.サンペイ(660点)、3位E.クラヴィエック(628点)の順と、4バルブ4気筒のスズキ勢が1-2-3を形成していましたが、プレーオフ含む後半戦はマシントラブルなども多かったこともあり、残り6戦で逆転されてM.スミスにタイトルを防衛された結果に終わりました。
周知のとおりMotoGPやFIM EWC(世界耐久選手権)撤退など、スズキは今年限りでモータースポーツ活動を大幅に縮小させますが、アメリカの活動は継続され、V&H ミッションスズキチームは2023年3月9〜12日からのNHRA PSMクラス開幕戦(フロリダ州ゲインズビル)から、来シーズンの戦いに挑む予定になっています(ライダーの陣容はまだ未定ですが、A.サンペイの離脱は11月23日に発表されました)。
果たしてV&Hは、久々のスズキ4気筒車によるPSMクラス制覇を2023年シーズンに成し遂げることができるのでしょうか? ともあれ、来春のシーズン開幕を楽しみに待ちましょう!
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)