2023年1月19日、警察庁は電動キックボードがらみの改正道交法を、7月1日より実施する方針を決めたことを明らかにしました。16歳以上であればノーヘル・無免許、かつ自転車並みの扱いで"合法"の電動キックボードを公道で走らせることが可能になるわけですが、この新時代の乗り物を野に放つ・・・車道や歩道を走行可にすることで、どのようなことが近い将来起こるのでしょうか? 普及がすでに進んでいるフランス・パリの、最新の電動スクーターに関する話題を紹介するとともに、日本人がこれから検討すべきことを考えてみたいと思います。
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2023年1月19日に公開されたものを一部編集し転載しています。

パリでは、シェアリングサービス継続について住民投票を4月2日行う予定!?

フランスの新聞「ラ・クロワ」の報道によると、パリ市長のアンヌ・イダルゴは1月14日のル・パリジャンとのインタビューで、Eスクーターのシェアリングサービス継続の可否を、住民投票で問うことを公表したとのことです。

需要増が証明する便利な乗り物・・・Eスクーターとの"共存"に苦しむパリ

パリはヨーロッパのなかでも、Eスクーターユーザーの登場が早かった都市です。2018年の夏ごろからEスクーターの姿がパリの街中で目立つようになった当時、Eスクーターに関するルールはまだ存在しませんでした。その後、最高速25km/h、歩道走行の場合は最高速6km/hという、日本がこれから導入しようとしているものに似ているルールが決まりましたが、その後の改正で歩道走行は禁止となり、自転車道と車道に制限することになりました。

さらに最高速度は20km/hまで下げられましたが、2021年11月にはルーブル美術館やエッフェル塔周辺など700のエリアで、Eスクーターのジオ・ロケーション機能によって10km/hに速度制限するルールが決まりました。

画像: 現在パリでは、ライム(写真)、ドット、ティアーの3社がEスクーターのシェアリングサービスを行っています。当地でのシェアリングサービスは2018年6月から始まり、当初は多くの業者が参入しました。しかし、事故などのトラブルの増加により規制が強化され、結果的に3社まで絞られることになったのです。 www.li.me

現在パリでは、ライム(写真)、ドット、ティアーの3社がEスクーターのシェアリングサービスを行っています。当地でのシェアリングサービスは2018年6月から始まり、当初は多くの業者が参入しました。しかし、事故などのトラブルの増加により規制が強化され、結果的に3社まで絞られることになったのです。

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サービスが継続した場合も、規制強化は避けられないと予測されています

現在のパリのEスクーター・シェアリングサービスは、ポート(ステーション)に返却しなくても良く、定められた駐車スペースに乗り捨て可能な「フリー・フローティング」方式です。定められた駐車スペースに乗り捨てない場合は罰金・・・というルールが施行された2020年以降は利用者のモラルが少しは高まったみたいですが、やはり事故などのトラブルの多さからEスクーターに好意的な目を向けない人は少なくありません。

行政の発表によると、2020年は7人、2021年は22人とEスクーター事故による死者は増加し、2022年は少なくとも27人が亡くなった、とのことです。また毎週日曜に発行されるフランスの週刊新聞紙の「ジュルナル・デュ・ディマンシュ」による推計では、2022年Eスクーターに起因する負傷者の数は6,000人にもなります。また行政もその推計を裏付けるように、事故件数は直近2年間で177%も増加したことを公表しています。

アンヌ・イダルゴ(フランス・パリ市長)
「"止める "というのが、私の考えです。しかし、私はパリ市民の投票を尊重します」

「フリー・フローティング」のEスクーターシェアリングサービスは、コロナ禍による人々の移動手段に対する意識変化や、パリで頻発する公共交通ストライキ対策の代替交通手段として、爆発的に利用者を増やしてきました。需要はある・・・のは確実ですが、利用者増と比例して増加する事故は無視できないということから、異例の住民投票が行われるというわけです。

住民投票の結果、サービスが継続するとなった場合も、Eスクーターに関する規制は強化される方向になるであろうと、現地メディアの多くは予想しています。そして継続しない場合は、シェアリングサービスは締め出されることになっても、個人所有のEスクーター利用者が代わりに増えるだろうと予想されています。ともあれ住民投票の結果を反映した改正案は、今年の6月に公表されるといわれています。

日本の場合、どれだけ迅速に問題に対処できるか・・・がカギでしょう

普及が進むにつれ、事故が増えるのは当然の帰結?

7月からの電動キックボード規制緩和スタートの報道を受けて、早速SNSなどでは蜂の巣をつついたように、多くの人々の「オピニオン」が飛び交っています。観察した限りでは、九分九厘は「規制緩和反対!」という声が殺到しているみたいですが、常日頃公道で自動車、オートバイ、スクーター、自転車を運転している方としては、「ただでさえややこしい混合交通に、さらにややこしい存在=電動キックボードが加わると、事故が心配だ!」と感じるのはじつに自然なことだと思います。

1980年代の国内バイクおよびスクーターブーム、21世紀に入ってからの第3次国内自転車ブームも、それぞれユーザーの増加に伴う事故件数の増加が社会問題となったのは、多くの人が覚えていることだと思います。あらゆる交通手段は、利用者の増加による経済的利益と社会的不利益が、二律背反なトレードオフ関係にあるといえるでしょう。

画像: シェアリングサービス大手、ライムの公式ウェブサイトより。自転車専用道路が充実している海外でも、電動キックボード(Eスクーター)による事故が社会問題化しているわけですから、それが充実していない日本で、その存在を許さない空気が醸成されるのも、仕方ないことでしょう。ところでこちらの男女、同じ方向に走っていますけど片方は路面のペイントの指示を無視していますね・・・(苦笑)。このあたりの大らかさも、彼我の文化の違いを感じさせます? www.li.me

シェアリングサービス大手、ライムの公式ウェブサイトより。自転車専用道路が充実している海外でも、電動キックボード(Eスクーター)による事故が社会問題化しているわけですから、それが充実していない日本で、その存在を許さない空気が醸成されるのも、仕方ないことでしょう。ところでこちらの男女、同じ方向に走っていますけど片方は路面のペイントの指示を無視していますね・・・(苦笑)。このあたりの大らかさも、彼我の文化の違いを感じさせます?

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事故の増加は不可避!? では、その解決策は・・・?

先述のフランス・パリの例だけでなく、電動キックボードの普及が日本より先に進んだ諸外国・地域では、やはり事故の増加が同様に社会問題化しております。おそらく日本も、7月以降に電動キックボードの普及が加速するとともに、不幸な事故の増加は避けられないと予想されます。

詰まるところ、電動キックボード普及の「副作用」たる事故の増加に対する「処方箋」は、即時対応の「法改正」しかありません。先達の諸外国・地域が行なっているように、リサーチによって利用状況および事故案件を把握し、どれだけ迅速に適切な法改正などの対策を実施できるか・・・が何より肝要といえます。

またこの件に関して日本の立法・行政がいかに機能するかは、道路を利用する、ひとりひとりの有権者の双肩にかかっています。どれだけこの課題について私たちが当事者意識を持てるかが、日本における正しい普及の道標になるのではないでしょうか・・・?

画像: その利便性の高さから、電動キックボード(Eスクーター)の需要は年々増加しています。調査企業のレポートオーシャンは、2028年には電動キックボードの世界市場は45億2,000万ドルに達すると予測しています(2021年7月の報道)。 www.li.me

その利便性の高さから、電動キックボード(Eスクーター)の需要は年々増加しています。調査企業のレポートオーシャンは、2028年には電動キックボードの世界市場は45億2,000万ドルに達すると予測しています(2021年7月の報道)。

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MaaS(Mobility as a Service:マース=個々の移動ニーズに応じ、サービスを提供)が世界的に需要増している今、電動キックボードは最適なソリューションとして多くの人に認知されていることに、異論を唱える人はいないでしょう。この「新時代の乗り物」との付き合い方の「最適解」が日本で導き出されるまでには、先達たる諸外国・地域同様に、しばし時間がかかることになるのでしょう。

電動ゆえ環境に優しく、個人のラスト・ワン・マイルの移動手段として電動キックボード(EVスクーター)が優秀なことを否定する人はいないでしょう。経済成長の「種」としても有望視され、利便性にも優れるこの乗り物との付き合い方を、私たちはしばらくの間、考えていかなければいけない時代に生きているのかもしれません。

文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)

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