※本企画はHeritage&Legends 2021年8月号に掲載された記事を再編集したものです。
外観の経年劣化対策から車両再構築メニューへ
カスタム手法や必要なパーツが出揃っていること。生産終了から15年経ち、車両を探す、あるいは維持するのが難しく感じられるようになったこと。ゼファーに新しい動きを感じにくくなった要因はその辺りが原因だろうか。しかし、バグースモーターサイクル近作の1100カスタムを見れば、ゼファーへの潜在的な期待と、必要な手の入れ方が分かってきそうだ。
「この車両に手を入れたきっかけはエンジンのサビなんです。皆さんも知っているような白サビ。あれをきれいにするところから始まって、エンジンを下ろしたらフレームも全部見えますからきれいにしよう、足まわりも外装も……と、フルカスタムに至ったんですよ」
バグースの土屋さんは言う。フラットブラック仕上げのエンジンとリペイントされたフレームは新車以上の雰囲気で、確かにいい。車両オーナーも納得で作業は進んだとのことで、きれいにするという基本の気持ちは、車両を良くしたい、今後も長く楽しみたい……となってこの形につながったわけだ。
フルペイントされた外装で派手さも見せるが、この車両にどの型式でもいい、きれいなノーマルカラーの外装を載せたとしてもきっちり決まるだろう印象がある。
そう考えると、この“きれいにする”を元にした構成はかなり魅力的だ。ところでこのエンジンの内部はノーマルのままだという。
「車両は、汚いままだと雑に扱われてて中身もそれなりとか。一方で距離が出ている割にきれいな印象な車両は、オイル交換など、大事にメンテして乗っていたと判断できます。この車両では状態が良かったので、中身はそのままです。
ほかの車両でも入庫後の試乗や圧縮測定などで状態を確認して、お客さんの要望と合わせていきます。煙が出たり、オイル消費が多いものは中も手を入れる方向です。それにしても作業や予算との兼ね合いもありますから、別のオーダーで入庫した際には状態をお伝えして、次の機会に手を入れましょうというケースもあります。
そんなことも含めてきれいにしつつ整備&カスタムを進める方が増えているようです。カスタムについての手法は当店のHPに載っている車両みたいにしてほしい、というような依頼もいただきます。ありがたいですね。ただ、製作が少し前だったりするものもありますから、パーツや手法の変化を考えて、今作ったらここはこうなるというような部分をアレンジします」
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車両環境の不安を減らすパーツ展開や車両供給も
この1100カスタムの例、そして後述する車両動向で、ゼファーへの潜在的な期待の高さは分かる。では、それを支える環境は?
「1100も750も純正パーツはどんどん減ってます。一番困るのはエンジンと電気ですが、1100ではピストンにコンロッド、クランクにカム、ミッションの純正部品がない。ほぼ全部きびしい(笑)。750も似たような状況です。
まだストックできているもので賄えますけど、それにしても使うことになります。ですから、今後のためにコンロッドやクランクなどは作ることも考えています」
土屋さんはパーツの補完も視野に入れる。750用オリジナルピストンの供給もそのひとつ。以前、第一報を紹介したイギリス・オメガ製鍛造ピストンだ。
「その後’20年の年頭にオメガ社に行きました。空冷エンジンでこういうピストンを作りたいとトップ形状や、ピストンリング、これは今純正オーバーサイズ品でも1000~3000kmで煙が出るようなものがあるのでそれを防ぎたいなど、細かい部分まで説明しました。空冷であることなど要所は掴んでもらって、何度かやりとりして詰めてます。質には問題ありません」
見本のピストンを見せてもらうと滑らかな肌で裏面とスカート部が構成され、トップ形状は2バルブのそれ。今まで見てきた鍛造品に比べてずしっとした芯のある量感を持つのも特徴のようだ。
「あえて軽くし過ぎないようなバランスで、サイドスカートも短過ぎず長過ぎず。サイドコーティングも施工されます。最終試作品ももう5、6台に組んでいて状態はいいです。現地の外出規制が落ち着けば7月末(※脚注・記事製作時、2021年のこと)には量産版が来ますから。それで750に関してはオーバーホールサービスが再開できます」と土屋さん。サイズは3タイプで、通常オーバーホール用に1mmオーバーサイズのφ67mm。パワーアップしつつ、先々もう一度手を入れるという層には810cc版のφ69mm。今すぐパワー感を楽しみたい向きは850cc版のφ70.5mm。
また、750エンジン用には新作のシリンダースペーサーを用意した。これは何度か面研されて高さが不足し、ピストンショルダーがヘッドに当たるようなシリンダーが増えたことへの対策だ。
「スリーブ打ち替え等で使えるのに、高さが足りないだけで使えなくなるのはもったいない(笑)。レーザーカットも自社で行えるようになりましたから、できることはやってみようと作りました」
これも嬉しい話だ。使えなくなるものが減らせる。自社製作によりパーツの発案から製品化までがよりスムーズ化する。使う側には間接的だが、在庫や納期の心配も減る。オリジナルパーツにもこれが反映され、人気のフェンダーレスキットは、耐久性を高めるためにアルミ無垢仕様を廃し、上質な仕上げのシルバーアルマイト仕様を新たに設定した。リピーターの多い製品も多く、こうした仕様変更は今後も進む予定だ。
さて、駆け足となったが、ゼファーの車両動向はどうか。これは、バグースが’18年から展開する、ゼファーのノーマル車両販売/整備特化店、ソイルマジックの動きで分かる。開店から3年、良質な車両が入ることが周知され、入庫したそばから整備→販売というケースが増えているのだという。遠くのお客さんが直接見に来ることも、車両の買い取り依頼も多いという。
これらは、いい車両への要望が増えた証拠だろう。ゼファー以前の旧車だと少し難しそう。でも現代車をモデルチェンジごとに乗り換えていくのでもない。オーバーホールやスープアップで長く楽しむ。自分好みの特性を作るといった楽しみはほしい。そこにゼファーがある。冒頭のようなきれいにすることを起点に手を入れるのは、その現れだろう。
バグースモーターサイクルは、こうしたゼファーに対する要望=長く、楽しく乗れることを満たすようなバックアップ態勢を充実させている。これは頼もしい話だ。
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ノウハウを生かしたスペックを持たせたゼファー用ピストンを新たに用意
このエンジンは取材時にオメガ製鍛造ピストンの到着を待っていたゼファー750のエンジン。現在はゼファー1100/750用の各種サイズが用意され、直営webショップで販売中だ。
バグースオリジナルのオメガピストン社製ゼファー750用鍛造ピストン。空冷直4の2バルブ、736ccベースのエンジンに合わせたバランスを重視してトップ形状や重量、サイドスカート長などの仕様を決定、現代ピストンらしくサイドスカートにはコーティング処理を行う。裏面にはBagus!とOMEGAのダブルネームが刻印される。ピン支持部や肉抜きの独自性も分かる。φ67mm(1mmオーバー/761cc)、φ69mm(810cc)、φ70.5mm(850cc)を用意。
面研を繰り返して高さが不足するゼファー750用シリンダーにシリンダースペーサーをアルミ自社加工(レーザーカット)で製作して対応。こうした対応策も提案している。
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需要の多いオリジナルパーツもニーズに合わせてより洗練される
オメガピストン社製ゼファー1100用鍛造ピストンも現在ではラインナップし直営webショップ(https://bagus23.cart.fc2.com)で販売中。1100のエンジンも純正パーツが減っているため、クランク、ハーネスなどの製作も視野に入れている。現状で問題ないエンジンにはこのような外観リフレッシュを行って所有感を高め、時期が来たら内部に手を付ける方法もある。
「BAGUS! オイルキャッチタンク&専用小物入れ 削り出しブリーザープレート付」(写真左が1100用、右が750用)。FCR/TMRキャブレターを装着した際に空くスペースに小物入れとオイルキャッチタンクを共締めする。シルバー仕様とブラック仕様を用意し、各パーツは単品購入も可能だ。
製品はキャッチタンクにパイプ径を合わせた削り出しブリーザープレート(角型が1100、丸型が750用)が組み合わされる。ブリーザープレート単品でも販売中。
こちらもユーザーからの人気が高い「KAWASAKI ZEPHYR1100 一体式フェンダーレスキット」。耐久性を高めるためシルバー(アルミ無垢)を廃番とし、新たに写真のシルバーアルマイト仕様を追加。’19年にはウインカーステー折損を防ぐためにステーをステンレスにするなど、アップデートを重ねている。
装着例で、写真左では前部に「BAGUS! 小物入れ」を装着しているのがわかる。シート下/カウル内が広く使えるのが好評で、ノーマルテールランプ仕様用とZⅡテールランプ仕様用がある。