450psでも壊れない余裕で12シーズンを戦ってきたドラッグBUSA
「このハヤブサはもう12シーズン、ドラッグレースを走っています。2型がベースで、途中で換えているのは前後ホイール(アメリカ・カロッツェリア製鍛造)と、ホイールベアリングを真円度の高いセラミックにしているところ。リヤも以前の仕様からさらに2インチ延びています。あと排気系はNOSを使いますからその分の発熱対策で、同じサイドワインダー(横出し)ですけど素材をチタンからステンレスに換えました。フレームはノーマルのままです。
エンジンは早い段階で1340から1441ccにアップしています。ボアを広げてHTP製鍛造ピストンをインストール。キャリロコンロッド、Webカムも組んでいます。NOS(ナイトラスオキサイドシステム。亜酸化窒素[NO]を吸気通路に強制的に吹き込む過給の一種。追加燃料も同時に噴く仕様もある)も合わせて、現状で後軸340ps出る状態です」
このハヤブサを仕立てたクラスフォーエンジニアリングの横田さんはさらさらっとこの仕様を言う。加えればクランクシャフトやメタルは純正のまま、クランクケースも純正。説明にあったカムも尖ったスペックでなく、ピストントップも純正に近いフラットな仕様で、バルブも純正サイズベースという。
「ハヤブサは純正のままで、このあたりまでは普通に耐えられるんですよ。それはこの車両だけでなく、アメリカのドラッグレースでも実証されています。この車両の場合はまだ先、450psを出しても壊れないように作ってあります。
クランクケース用とシリンダー用のスタッドボルトは純正の鉄からAPEのクロモリ鋼製にして強固にシリンダーとケースの上下をつないでいます。あとドラッグではクラッチのセッティングやプレートのチェックを細かくやるので、それが容易に出来るクラッチカバーに換えています。また、大きな加速Gがかかってエンジンオイルが後ろに偏るのを防ぐオイルパンも使っています。純正でもハヤブサはオイル偏りを防ぐデザインになっていますが、最低地上高も下げやすいものにしているんです」
こうして聞いてみると、そのチューニングメニューはオーソドックスと言っていいだろうか。排気量の拡大と過給でパワーはノーマルの1.5倍以上に引き上げられている。2倍以上も可能というのは、NOSのセッティング(NOの噴射量やタイミング、追加燃料量)も見込んでのことだ。
「450psというのはコースやライダーという条件が揃えばいずれは出すだろうということで、先に対策をしておけば後からしなくても済む。ハヤブサの場合はそれが難しくないんです。ストレスのかかりやすいクランクメタルも含めて、耐久性も高い。
このハヤブサも2シーズンに1度というサイクルでエンジンを開けて中をチェックするという具合ですが、ダメージは少ないです」
12シーズンで大幅な変更がないということは、この仕様で十分行ける、そしてその先も見通せるということ。とくに’21年からは参戦中のJD-STERドラッグレースがJARIの1/4マイル(約402.1m)コースを使うようになっりタイムも上がって、走りは安定してきた。横田さんはコースの状態の方も安定しているので、条件を揃えた状態でいろいろなことを試しやすく、結果が分かりやすいとその理由を言う。
「出力も安定して路面に伝えられるので、ライダーも乗りやすくなるし、セッティングも分かりやすくなる。データロガーもありますし。パワー自体はNOSセッティングですぐ上がりますけど、そこは慣れも必要になる。ハイパワーに対してマシンに耐久性があるとは言ってもメンテナンスサイクルを短くしなければならないし、リスクだって増えてきます。そこも考えて、少しずつ上げるのでいいと判断しています」
わずか1/4マイルの中に詰まったチューニングの要素は、ロス低減や耐久性、パワー伝達。そしてコントロールという意味でもカスタムに反映できる。その高いポイントでのカスタム例と捉えれば、大きな参考になってくれる車両なのだ。
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Detailed Description 詳細説明
この車両は2年少し前にも紹介しているが、その最新の状態として改めて車体各部もお見せしよう。外装はミラーこそ外されるがヘッドライトやテールランプ、フロントウインカーは備える。灯火類装備、タイヤも含めて公道を走れる車両をチューニングして走るというSBS=ストリートバイク・シュートアウトクラスの流儀だ。このSBSが今に続くアメリカのストリートバイク系ドラッグレースの源流なのだ。
メーターは第2世代ハヤブサの純正で上にシフトライト(メガホン状カバーは点灯を分かりやすくする)を配し、メインスイッチ近辺にNOSやA/F、燃料量調整用スイッチが備わる。トップブリッジはD.M.E.(オフセットは純正に同じ32mm)でハンドルはベビーフェイス製を使う。
フロントスクリーンの左にはJD-STERドラッグレースでの1位獲得ステッカーが並ぶ。2022シーズンは5戦全戦決勝進出し4度優勝している。
ロングスイングアーム対応のテールカウルはアメリカのハヤブサ・ドラッグチューニングで知られるD.M.E.製でそれ以外の外装は純正のままだ。
フロントフォークはハヤブサ純正のφ43mm倒立タイプで、Brock's Performanceのラジアルマウント用ローダウンタイダウンキットで車高を下げて車体姿勢を調整する。フロントブレーキまわりは、TOKICO製4ピストンラジアルマウントキャリパーもディスクもハヤブサ純正を使う。
スイングアームは、現在はD.M.E.製10インチ(約25.4cm)ロングを装着。前側に見える青いボトルはNOS過給用/エアシフター駆動用のNO(亜酸化窒素)が入る。リヤショックはロング仕様に合わせたBrock'sドラッグショックEZ。リヤブレーキはハヤブサ純正を使う。
ホイールはアメリカCARROZZERIA製アルミ鍛造3.50-17/6.00-17サイズで、タイヤも公道走行可能なラウンドタイプのラジアルを履いている。ホイールベアリングは内部ボールの真円度が高く、軽量で低抵抗となるセラミック製に換えられ、パワーをより生かすようにしている。