※本企画はHeritage&Legends 2022年5月号に掲載された記事を再編集したものです。
新しい体制でも変わらぬ車両への細かい作り込み
純正のカラーパターンを踏襲しながら色使いを青主体としてシャープなイメージを持たせ、前後17インチ化したCB1100RC。フレームの補強溶接や燃料タンクの加工からはタジマエンジニアリングならではのワンオフらしさも感じられる。素性を聞いてみよう。
「そうですね。この車両は“とにかくルックスをレーサーに近づけてほしい”というオーナーさんの依頼で最近仕上がったものです。作り方や作業といったものは今までと基本的には同じですよ」
こう言うのは、タジマエンジニアリングの新代表となった村嶋さんだ。村嶋さんは同店でもう25年近く務めてきた。創設者の田島歳久さんは、自身の右腕として、頼れる相棒として、村嶋さんの成長を見つめ、ともに作業を行ってきた。そしてこの2月に田島さんが逝去し、村嶋さんが後を継いだ。つまり、新しい体制となったのだ。
そしてこのCB1100Rは田島さんと村嶋さんがふたりで手をかけてきたという点では今まで通り。ここで同店の歴史にも触れておこう。
タジマエンジニアリングはCB-Fが現役の旗艦として展開していた1980年の夏に、今と同じ福岡市南区でオープンした。大型モデルから地元に根付いた移動手段となるスクーターまで、ホンダの車両を販売し、整備する。創業時に30代半ばだった田島歳久さんは、独立する以前はホンダSFに所属。その中でレースにも関わり、バイクのフレーム測定/修正機を作り、車体もエンジンも各種チューニングを行うなどしてきた。
店舗を構えて以降も、RC30での鈴鹿8耐参戦や、4輪のホンダS800やNSXのチューニングを行う。CB-Fに大きく力を入れるのは、車両販売や一般整備が落ち着いて、田島さん自身が元々やりたかったというこうした作業に集中できるようになった2000年代に入ってからだ。
車両現役当時のノウハウを生かし、前後17インチやF16/R18インチの車両を多く手がける。壊れにくく、快適に回るエンジン。同じように、快適な車体のための補強やディメンション変更も確立する。この頃には村嶋さんも既に加入していて、田島さんと一緒に作業を続けてきた。
それを踏まえて、最新作の仕様をもう少し聞いてみよう。
「エンジンはRSCピストンを組んで、ミッションも5速クロス。クランクの軽量加工も行っています。フレームは当店の17インチ定番で20カ所を補強して、燃料タンクはノーマルのアルミにクイックチャージャー加工をしています。カラーリングはラップ塗装してほしいとか、パーツももっと派手な感じのものを、と言われていたんですが、田島さんが調整して、このくらいのバランスでいいかなと落ち着きました。
もう1台の赤フレーム車も説明しておきましょう。こっちはカスタムの中古車だったものを、リフレッシュと同時にフレームを“やっておきたいから”と田島さんが補強して組み直したものです。これが田島さんの最後の加工フレームになったと思います」
なるほど、エンジンの仕様やフレームの構成は確かに今まで通りだ。もしあえて、と言うなら、田島さんがこうしたディメンション変更の際にホンダ純正パーツを使うことが多かったこと。CB-Fの前後17インチ化でCB1300SF(SC54)やCBR1000RRの足まわりを使うなど。この両車はそれを市販パーツで構築している点が違いと言えば違いか。
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新しい体制でも変わらぬ車両への細かい作り込み
「そんなところはあるもしれません。コストを抑えたり、フォークオフセットなどのディメンション変更もそのまま取り込める利点もありましたし。もちろん計測などもしてから行ってましたけど。
ほかに違いがあるとすれば、車両よりも作業の進行でしょうか。田島さんは“ファジーにやろう(笑)”って、複数台の車両を請け負って作業を同時進行ということもしていましたけれど、今は1台ずつ進めています。
田島さんと私でそれぞれ車両を受けて作業していたから同時進行ができていたんですけど、さすがにひとりでそれは難しい。今まで2本あったラインが1本になったようなものですから、その分を整理して、進めているところです。なので、今は新規の作業をいったん止めさせてもらっています。これが整理できたら再開します。入庫したままお待たせしてしまうのは申し訳ないですし」と村嶋さん。
ところで、村嶋さんは従来の同店でのCB-F作業メニューをどのくらいカバーするのだろうか。
「全部やりますよ。ポート加工も、バルブガイド打ち替えも、クランクの軽量加工も、フレーム加工も。今までの車両にも私が作業してきたものも多くあるんですよ」
そう言えば田島さんは当初、ポート加工をはじめとしたオリジナルの作業メニューを店名を冠して“タジマスペシャル”と呼んでいた。それがいつしか“タジマ&ムラシマスペシャル”と変わっていた。今振り返って思うと、田島さんは自身の作業を、村嶋さんに免許皆伝していたということだった。だから、すべて受け継いでいるという村嶋さんの言葉はクリアで、自信というか、重みが現れている。
「そう取っていただけるとありがたいですね。田島さんも常々“ウチで組んだエンジンは壊れないよ。無理して速くするようにもできるけど、今のCBは壊れないように作るのが大事”と言ってました。それに合わせたパーツ選びや加工をやってきていますし、それを続けられればいいと思います。
エンジンも750はパーツはありますから当面大丈夫でしょうし、900/1100もないと言えばないのですが、まだ何とかできると思います。1100のシリンダー固着等も何とかできますから、無理して壊さないように」
こうしたCBへの全体感にも村嶋さんは目を配っている。もうひとつ、今のCBの傾向も聞いてみよう。
「750FCを筆頭に人気は出ているようですが、車両がほしいからとネットオークションで買って、どうしようもなくなっている方も多いようです。オーバーホールするしかないんですけど、先にそこも考えた上で買う計画を立てた方がいいかと思います。車両の相談もできますから、聞いていただいた方がいいでしょう」
新しいスタッフとふたりで今までの作業を済ませることもあって、新規の重作業はもう少ししてからのことになる。でも屋号も作業内容も変わらない。突然のことにも、スムーズな移行ができた。今の作業が整理できたら、また新たなCBが快調を目指せる。タジマエンジニアリングの存在に、CBファンはこの先も安心できるはずだ。
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変わらず引き継がれる快走CBへの技術とノウハウ
混合気の流れを考えるポート加工
田島さんと村嶋さんがふたりで共有していたCB-Fへの内部加工/ディメンション設定等のノウハウは、村嶋さん+新スタッフの体制にそのまま引き継がれた。どれもが必要な作業で、意味があることだからだ。村嶋さんによれば「ポート表面のざらつきや接続部の段差を取るだけでも有効。加工は混合気のスムーズな流れを重視します。ただ広げても流れの壁ができてかえって効率が悪くなることもあるのでよく考えながら」とのこと。荒削りから徐々に仕上げる感じでツールを変えつつ仕立てる。なお、作業写真はイメージ。
タジマ流クランク軽量加工
バランスを取り振動を減らしながらも、クランクとして重要な慣性を失わないタジマ流クランク軽量加工も定番メニューとして引き継がれた。写真は奥からCB750Fノーマル、中がCB1100Fのサーキット専用軽量加工済み。手前は軽量化の限界に挑みつつ実用性も高めた超軽量品(8.1kg)。他部分はポート加工程度のノーマルプラスアルファで無理をさせず、その代わりにクランク軽量化で隠れたパワーを引き出すという発想だ。
タジマオリジナルのCB-F/R用17インチ適合フレーム補強
本文で紹介した赤いCB1100Rでは、ネック部下へのダウンチューブ半2重管(ダウンチューブの外側にもう1枚巻き付ける感じ)、左右ループの連結(フロントのエキパイ直後、リヤのピボット上をそれぞれパイプでつなぐ)、シートレール分岐部(ピボット上)に補強が加えられる。青いCB1100Rではダウンチューブ背面半2重管はエンジン下X字補強なども入り、ハイグリップ17インチタイヤに対応する。
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タジマエンジニアリング製CB-F/Rカスタム群
上は着脱可能なアルミサブフレームによるRS1000レプリカ“CB1000RS”[1号機]で、人気もあり現在5号機が製作中。下はそのサブフレームを外して通常のFタイプへと外装を変更したもの)。村嶋さんはこれまでのお客さんの車両やパーツ、作業も把握しているから、今後も質の高い作業が期待できる。