文:横田和彦
刀と過ごした13年間は人生で一番濃かった!
ボクがGSX1100S刀を知ったのは中学生のとき。模型店でプラモデルを見て衝撃を受けたのだ。その未来的なシルエットは『刀』の文字とともに脳裏に焼き付いた。実際に刀に乗り始めたのは20歳のとき。限定解除を10回でクリアし、友人が買う予定だったGSX750S刀を譲ってもらったのだ。
純正の耕運機ハンドルは納車後すぐにセパハンに交換。初めて乗った大型バイクは、型遅れとはいえ大迫力。重量感ある車体を中型バイクとは比にならない怒涛のトルクでグイグイと押し出す。そのパワー感に感動。信号待ちでショーウインドウに映った自分を見て「憧れの刀に乗っている!」とまた感動。カスタムブームに触発され、集合マフラーにしたり、リアショックを交換したり。ついにはプラモデルで培った技術を駆使して外装を缶スプレーで赤くペイント。自分仕様にして楽しんだ。
だが750ということに引っかかっていた。やっぱり1100が欲しい。就職してショップ巡りをするとある大型中古車店でやけに安いカタナを見つけた。見るとGSX1000S刀とある。スーパーバイク選手権のために限定生産されたモデルだ。年式は古かったが価格と希少性に惹かれて購入。1000Sは満足できるパワー&トルクを発揮。この頃にはフロント19インチのハンドリングにも慣れきって、峠をハイペースで走るのも楽しかった。逆輸入の刀を手に入れると、次はカスタム熱に感染。雑誌を穴が空くほど見つめて研究した。ここで詰め込んだ知識が後の仕事に役立つとは考えてもいなかったけど。
ボクは細々とカスタムパーツを買っては装着するを繰り返し、刀のウイークポイントを少しずつ攻略。160km/hを超えると振れはじめる車体に対してはボルトオンのフレーム補強パーツなどで対応。スポンジーなブレーキはANDを解除してローターやキャリパー、マスターシリンダーを交換し制動力とタッチを高めるなど、刀専門ショップに出入りしてアップデートを重ねた。
サーキット走行をはじめたのもこの頃。30歳と遅咲きだったがサーキット走行にハマり、半年後には何を血迷ったかテイスト・オブ・フリーランスにエントリー。街乗りの刀をレース仕様にして走り、終わったら戻してツーリングに行くという生活を送った。途中、エンジンの不調などがありGSX1100S刀に乗り換えたが、ホイールは最後まで変えず19インチのままレースも走った。
今思えば古風なハンドリングだけど、フロントを軸に全身を使ってバッサバッサと振り回すようにコーナーリングするのはとても楽しかった。ホイールを変えるとその刀らしい乗り味が薄れちゃうんだよね。流用カスタムも色々と試したけど、どれもが勉強になった。
そんな刀ライフは13年ほど続いたが、最後はレースでエンジンが壊れて終了。仕事を変えたタイミングだったので、刀を修理せず他車に乗り換える決断をしたのだ。今でもその選択は間違ってなかったと思っている。しかし刀と共にすごした時間は人生の中でもめちゃめちゃ濃かった。だから今でも街でGSX1100S刀を見かけると心が少し反応しちゃうんだよね。
文:横田和彦