文:中村浩史/写真:富樫秀明
ホンダ「GB350」ツーリング・インプレ(中村浩史)
素晴らしく“普通”の、緊張を強いられないバイク
空冷単気筒というと、年々厳しくなる排出ガス規制と音量規制とのからみから、もう存続していけないエンジン型式だと誰もが思っていた……はずだった。
けれど、2021年に登場したホンダGB350/350Sは、直立シリンダーも雄々しい、空冷単気筒2バルブエンジンを採用し、存続困難なはずの規制を乗り越えて誕生したブランニューモデル。この数年続くネオクラシックブームや、成熟した年齢層の本物志向によって、あっと言う間に大人気モデルになってみせた。
そのGBは、素晴らしいほどに何の変哲もないバイクだ。
冒頭に言った空冷エンジン、パイプフレームに正立フォーク、リヤ2本ショックを持つネイキッド。もちろん、最新の技術で作られたバイクだけれど、決してその新しさをアピールし過ぎない。
たとえば空冷エンジンは、空冷単気筒ならではの「味わい」と「不快さ」を分けるため、一般的な一次バランサーに加え、ピストンの往復運動で出る不快な振動をもキャンセルするために、メインシャフトにウエイトを追加。味わいある「鼓動」と雑味に感じる「振動」を明確に分けている。
スチールパイプによるセミダブルクレードルフレームは、コンベンショナルな形状と構造。その中に最新のCAEによる構造解析や振動解析を駆使し、動的荷重変化、つまり走っている最中のフレーム変形までコントロールしようとする、最新のフレームなのだ。
伝統的な、言い換えれば「古臭い」空冷単気筒エンジンと鉄フレームこそ、GB350/350Sのメインキャラクター。この2大要素に、古く見えるのに新しい技術を投入したところで、GBの成功は約束されたようなものだ。
いざ乗ってみると、何の緊張もなく気負いもないライディングポジションで、完全にリラックスして走り出せるGB。まるで昔から何度も乗ったことがあるような、かつて自分の愛車だったことがあるような錯覚さえ感じてしまう。
注目していた空冷単気筒エンジンは、軽く吹け上がる、スロットルを大きく開けなくても、鼓動を感じることができるフィーリングで、開発エンジニアたちが目指した「鼓動はあるが振動なし」がよく分かる回り方をする。
マフラーから吐き出される排気音は、擬音で再現しやすいような、ぱたぱたぱた、という可愛らしいサウンド。クラッチは軽く、ミッションは確実に、手の内に余る出力で、軽い車体をブレーキがきちんと止める。誰にでも分かりやすい、何の癖もないハンドリング。
バイクと言うより、単車、オートバイという言葉が似合う、久しぶりのニューモデルなのだ。