※本企画はHeritage&Legends 2023年5月号に掲載された記事を再編集したものです。
レストア車を買って20年で、実は手放す寸前でした
きっかけは中学生の頃。TVドラマ「西部警察」で、舘ひろしさん扮する鳩村刑事と走り回る黒いカタナにひと目惚れ──なんてなれそめはよくある話。そんな少年が実際にカタナを買ったのは2002年、カタナ専門店のレストアコンプリート車でした。
新車当時から知るファンならご存じだろうけど、実はカタナって重いしエンジンはダルいしブレーキは効かない曲がらないってバイク……。もちろん、それを上回る魅力があるから今も人気モデルなんだけれど、僕が買ったレストアコンプリート車はそんなカタナのネガを、当時の現代風にきちんと完全整備した仕様だったんです。
前後のベアリングを高精度のシールタイプにして、キャブレター同調を完全整備、エンジンを適正位置組み付けと適正トルク締め付けするだけで、カタナはまるで別のバイクになるんです。
仕事柄、最新のバイクにはたくさん乗る機会があるので、いろんな流行も経験してきました。レーサーレプリカもネイキッドも、アメリカンもトラッカーもスクーターも……この30年くらいのモデルにはほとんど乗っている。
もちろん、カタナより後に発売されたバイクは、性能も乗りやすさも、ぜんぜんカタナより上なのは当たり前。けれど、性能や乗りやすさに惚れてカタナを手に入れたわけじゃないから、ずっと古くならない。考えてみれば、買ったときにすでに登場から20年、絶版の古いバイクでしたし(笑)。
もし「史上最速」に惚れて当時最強のスーパーバイクを買ったとしたら、その惚れこみポイントは数年後には塗り替えられ、それがずっと続いちゃいますからね。
カタナですか、速くも軽くもないでしょ? ぜんぜんOK。
峠で曲がんないでしょ? そんなペースで走らないもん。
乗りやすくないよね? それ知ってて買ったんだもの。
すべてを超越してカタナが好き、だから乗ってるんです。
それでも、年々シンドくなってきます。理由は車重と、市販車の歴史上1〜2を争うんじゃないか、というほどキツいポジション! ハンドルは低いし遠いし、ステップは高くてヒザの曲がりがキツい。そんなだから、しばらく乗らない期間ができて放っておくと、とたんにグズるし、調子が悪くなる。
ここまで惚れた惚れたと書き続けてきたカタナですが、実は手放す寸前だったんです。
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部品も廃番になる時が来る。それが絶版車の宿命です
──そろそろ手放すかな、やっぱり長く乗れないね、あのポジションは。もう20年乗ったしさ……。
友人にそんな話をしたのが数年前。ハタチの頃にやった、東京〜九州往復の1500kmロングキャンプツーリングを、30年ぶりにもう一回やりきった後でした。
「ばかだな、いま手放したらもう二度と手に入らないぞ。ポジションがキツいならバーハンドルにしちゃえばいいじゃんか」
そう言ってくれた友人って、実はオオノスピードの大野さん。ご存知カタナ専門店のチューナーにしてメカニックで、カタナのことを世界一知り尽くした人のひとりです。
──ええっ!! カタナにバーハンドルかよ、なんて葛藤はあったけれど、背に腹はかえられない。好きなカタナに乗り続けるなら、セパハンじゃなくてもいいか、50歳からのカタナの形があってもいいか、そんな決断だったんです。
バーハンドルキットを組んでもらってからは、飛躍的にカタナで走る回数、距離が増えましたね。なんだよ、カタナなのにセパハンじゃないのかよ、なんて言う人もいたけれど、それでも僕は「いつでも乗れる快適なカタナ」という新しい相棒に満足でした。
でも、そうやって走り回っていたら、不注意で事故に遭ってしまい(僕の過失割合はゼロだったんですよ)、再びオオノスピードへ。転倒箇所の修理はもちろん、製作して20年が経ったコンディションもリフレッシュしようか、ってことにもなったんです。
でも、その頃はちょうどコロナ禍の真っ最中で、純正パーツもカスタムパーツも手に入らないって時期。もちろん、塗装や板金の業者さんだって手いっぱいで、気長に待つよ、とは言ったものの完成まで15カ月も要したのが、ここでご紹介する車両なわけです。
バーハンドルなのは引き続き、ノーマルシルエットを崩さず、エンジンまわりはノーマルで、ワイヤハーネスは新品に。20年使ったオーリンズのリヤショックをアラゴスタに換えて、前後キャリパーもそれまで使っていたブレンボのキャスティング4ポッドをもう一度、同じものに一新。パーツのチョイスは、この先も補修の心配が要らないものを中心に選んでもらいました。
絶版車に乗るということは、補修パーツがなくなる心配と戦っていかなきゃいけないということ。純正部品でもカスタムパーツでも、もう手に入らないパーツだって出てくるだろうし、けれど現実的には、なくなりそうな部品をストックしまくるわけにもいかない……。なくなる可能性の低いパーツを専門店と一緒に選ぶ──それも絶版車に乗り続ける知恵なのです。