文:宮崎敬一郎、オートバイ編集部/写真:南 孝幸
ヤマハ新型「MT-09 ABS」インプレ(宮崎敬一郎)
「トルク&アジャイル」の伝統が活きるクイックさ
新型のMT-09はスタイリングが大幅に変更され、顔つきは鉄仮面、タンクは幅広くエラの張ったデザインになった。外観は似ても似つかないが、先に登場しているXSR900とメインフレーム、エンジンといったプラットフォームは共通だ。
アッパーミドルクラスの中でも小さめの車格は扱いやすさを生んでいる。しかも、このバイクの伝統的な魅力である200kgを切る車重とパンチ力ある120PSものパワーは十分強力な武器。XSRよりホイールベースが50mmほど短いこともあって、ハンドリングはこのクラスにしては非常に軽快。街中でのシャープな動きから、峠道でのクイックな運動性能には光るものがある。
この走りを生み出すエンジンのパワーバンドは6000~1万800回転といったところ。猛烈にパンチ力があり、最もレスポンスのダイレクトなパワーモードの「1」でリフトコントロールをオフにすると、フル加速でほぼ確実にフロントを天に振り上げる。コンパクトで軽い車体とこのエンジンの組み合わせが持つ「本性」はかなり乱暴なのだ。
それを抑えているのがIMU同期の各種ライディングアシスト機構で、それらを統合して3種類のモードと2種類のユーザーセレクトモードを合わせた、計5種類のライディングモードが用意されている。
「スポーツ」はパワーモードも「1」で、1速で回し切るようなコースではギクシャクしやすいが、2速で回し切るようなところではベテラン受けする面白さがある。扱いやすいのは「ストリート」で「スポーツ」に見劣りしないペースで走れる。どちらのモードにするかは、積極的にパワーを姿勢制御に使うかどうかで決めればいい。
ただ、今回の試乗では、トラコンやスライドコントロールなどをいろいろセッティングしても、2速の中回転域を使いながらフルバンクで旋回するような状況で、ちょっとしたスロットルワークやライン変更をするとリアがブレークしやすかった。フロントがしっかり路面を掴んでいるだけに、リアサスの踏ん張りがもう少し欲しかった。高速コーナーではしっかりと食い付くつくから、プリロード調整で最適解が見つかるのかもしれないが…。
街中やツーリングユースでは乗り心地もよく快適だし、特にイラ付くような振動も出ない。さすがに長い市場経験を積んでいるMT-09である。持ち前の動きの良さが気楽で自由自在な機動を実現している。特にサスの動きに合っているのが、70km/hあたりまでのストリートペース。細かな衝撃も上手く吸収して、しっとりというよりフワーっと走る。
新型MT-09はとても敏捷な動きが魅力で、アクの強いルックスをアピールするヤンチャなモデル。あえてライバルを挙げるとすれば、よく似た車体構成でプライスも同じだが、ネオクラシックルックを持つXSR900なのかもしれない。