文:中村浩史、オートバイ編集部/写真:南 孝幸
カワサキ「水素エンジンモーターサイクル」特徴

Kawasaki 水素エンジンモーターサイクル
鈴鹿サーキットでデモランを行なった開発車はNinja H2 SXベースのプロトタイプ。カウルやタンク&シートなどはオリジナルで、水素タンクはリアのケースに収まる。
カーボンニュートラルを実現する次世代エンジン
一般社会はもちろん、クルマやオートバイの世界でも当たり前のように語られ始めたカーボンニュートラル。クルマやオートバイでは、いまやガソリンを燃料に動力を得るという根本的なところからの大改革を迫られているが、そんなカーボンニュートラルへのカワサキの答えのひとつとして登場したのが、ニンジャe1とZ e1の電動モデルだった。

2024年鈴鹿8耐の場では開発メンバーのトークショーも開催された。左から松田義基・水素プロジェクト担当エンジニア、市 聡顕・先行開発部長、テストライダー。
「電動モデル=バッテリー+モーターでは、今までの歴史上で培ってきたエンジン技術は使えず、ゼロから作ってきた。その点、水素エンジンは、従来のエンジンをベースに、ガソリンの代わりに水素を燃料として使えばいいんです」と語るのは、カワサキの社長直轄プロジェクトである水素技術を担当する松田義基さん。
今回、公開された水素エンジンモーターサイクルは、H2SXをベースに、ガソリンタンクの代わりに水素タンクを積んだもの。もちろん、そのまま使用できるわけではないが、エンジン単体だとガソリンエンジンから最小限のモディファイで済むのだという。
「簡単に言うと、水素タンクからホースを通ってインジェクターで水素を噴射するイメージ。水素はガソリンよりはるかに燃えやすいため、エンジン内部パーツに専用コーティングなどが必要ですが、特別な専用パーツなどは必要ないんです」(松田さん)
カーボンニュートラルへの道は、電動やハイブリッドだけでなく、いろいろな方法を模索し、開発を進めていくべきだというのがマルチパスウェイという考え方。いま日本の乗り物用水素エンジンは、カワサキをはじめとした国内4メーカーとトヨタが合同で結成したHySE(ハイス)という研究組合で行なわれている。
「カワサキは、バイクはもちろん、飛行機や船も手掛ける重工業で、水素についても、水素生成から保管、運搬まで全工程で研究してきました。ガソリンに代わる水素エンジンは、クリーンさやサステナブルなだけでなく『乗って楽しい』エンジンにできる可能性が大きいんです。特にオートバイへの採用にとても向いていると思います」とは、先行開発部部長の市 聡顕さん。
水素のある世界で、オートバイの未来は明るい! のです。
水素エンジンはH2の4気筒ベース!

水素エンジンとは、文字通り「水素」を燃料とし、水素の燃焼反応で動力を得るもので、燃焼すると酸素と結びついて水が排出され、CO2とNOxを発生しないため、ガソリンに代わるエネルギーの一策として研究開発が進んでいる。このエンジンのベースとなったのはNinja H2 SX用のスーパーチャージャー付き998cc 4気筒で、水素をシリンダーに直接噴射する筒内噴射方式を採用。
カワサキ「水素エンジンモーターサイクル」各部装備・ディテール解説

車体後部の左右に大きく張り出している水素タンクのケース。内蔵される左右ふたつの50LタンクはトヨタMIRAIのものを使用している。

ボディカラーは水素のクリーンさをイメージしたブルー基調。ヘッドライト周辺はシルバーで「H」の文字をかたどっている。

足まわりパーツもH2 SXと共通。H2 SXをベースとしたのは、水素エンジンと吸入量の多いスーパーチャージャーの相性がいいためなのだという。

水素自体の重さは約2kg。実験段階の今、水素2kgで約100kmの走行が可能。シートの形状自体はH2 SXのものと同様と思われる。

実験車のため、マフラーもH2 SXのものを使用しているが、排出ガスはなく、出る「水」もアクセルオンですぐに蒸発するのだという。

水素タンクケースの中央に設定された水素注入口。現在の水素ステーションの規格では、50Lタンクが注入できる最小の容量なのだという。
文:中村浩史、オートバイ編集部/写真:南 孝幸