文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事はウェブサイト「ロレンス」で2024年8月10日に公開されたものを一部編集し転載しています。
初期モデルに比べ、より実用的になっていることがうかがえます
HySE(水素小型モビリティ・ エンジン研究組合)のメンバーであるスズキは、水素を2050カーボンニュートラルの選択肢のひとつとして扱っています。2017年の東京モーターショーでは水素燃料のFC(燃料電池)駆動の「バーグマンフューエルセル」、2023年のジャパン モビリティ ショーには水素内燃機を搭載する「水素エンジンバーグマン」を展示し、当時話題となりました。
これら2機種の試作スクーターはともに圧縮水素を用いており、燃料タンクの容量は10リットル(使用圧力70Mpa)となっています。燃料タンクは乗り手の足の間、車体中央に配置されており、その空間確保のためにベースとなったガソリンICE(内燃機関)搭載のバーグマン ABSよりも、かなりホイールベースが長くなっています。
周知のとおりガソリンを入れる燃料タンクは、比較的自由に形状を決めることができます。しかし水素の場合は耐圧性が燃料タンクに求められるため、ガソリン用燃料タンクほどには自由に形状を決めることができません。2023年展示の水素エンジンバーグマンのホイールベースの長さは、ある意味苦肉の策としてのホイールベース延長といえるでしょう。
先日明らかになった、新バージョンの水素エンジンバーグマンの特許図の特徴は、燃料タンクレイアウトの工夫にあります。ホイールベースを、ベースとなったガソリンICE版バーグマンと同値におさめるため、前側の燃料タンクはステアリングヘッドパイプからスイングアームピボット方向へ斜めに配置。そして容量を増加させるため、シートレール側にも1つ燃料タンクを追加しています。
水素をICEの燃料として使うことの、水素FCに対するメリットは?
水素はガソリンに比べ、体積あたりのエネルギーがおよそ1/4しかありません。そのため燃料タンクの容量を一般的なガソリンICE搭載車よりも大きくしないと実用性を損なうのが、水素ICE最大の弱点といえます。改良型水素エンジンバーグマンが燃料タンクを2つに増やしつつも、車体サイズ的にはガソリンICE版バーグマンと同等にしているのは、とても素晴らしいことだと思います。
水素ICEと水素FC、効率から考えると将来性があるのはFCの方でしょう。特に2輪に搭載する場合、ガソリンICEよりも燃料タンク容量を大きくしなければいけない点は、軽量・コンパクトさがほかの動力付き乗り物よりも重要な2輪においては、かなりのハンデとなります。
ただ、水素ICEが水素FCに対して全くアドバンテージがないわけはありません。既存のICE技術を応用できるのは、水素ICEのアドバンテージのひとつです。そして使用する水素燃料の純度が、FC用よりもシビアに求められないところも、水素ICEのアドバンテージといえるでしょう。
水素ICEにせよ水素FCにせよ、世の中が水素社会実現に本格的に舵を切り、水素のサプライチェーンとインフラが世界的に整備されない限り、水素を利用した2輪車の普及はないでしょう。ただスズキが水素エンジンバーグマンを「進化」させようとしていることは、多くのICEを愛する2輪ファンにとっては朗報に違いないでしょう。この特許図が試作車という形となって、各種ショーなどで我々の前に登場することを期待したいですね。
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)