※本企画はHeritage&Legends 2024年2月号に掲載された記事を再編集したものです。
開けていくことで分かる現状と次にやるべきこと
GPZ900Rをルーツに、ボア/ストロークを拡大して排気量を908から1052ccに。バルブを駆動するロッカーアームを2バルブ1ロッカーから1バルブ1ロッカーにして精密性を高める。ダウンドラフト吸気によって吸気/排気の流れをストレート化し高効率化を図る。そうした進化を受けたZZR1100のエンジン。
普段は「オーバーホールする」「チューニングする」という内容を紹介してきたが、今回は全バラ作業を追った。サンプルにしたのはトレーディングガレージナカガワに保管されていた個体。外観からZZRのそれと分かる以外は不詳。だから今回の分解によって、内容を知るという目的もあった。
一般には車体から下ろし、冷却系や吸排気系を外した上で取りかかるが、ここではエンジン単体をスタンドにかけた状態からスタート。中川さん(今回はメカニックの豪さん)はウォーターパイプ/ホースやスターターなど、エンジンに残された補機類を外し、ヘッドカバーやクランクケースカバーなどの外部パーツを手際よく外していく。外されたパーツはパートごとに大きめのビニール袋に収め、他と混ざらないようにする。
分解していく中で、ZZRエンジンの現状が次々と見えてくる。ニンジャ系ということで共通となるポイント、エンジンとして見ておきたい部分。パーツの減りや割れ、ヒビ、サビにヘタリ、ありがちな不良にも目を光らせていく。オイルパンやカバー内に残ったオイルの状態も重要だ。どんな色か、粘度か、不純物はないかなど。いいオイルを定期的に換えたものはそれらもきれいで、汚れを残さずに正しく潤滑したと判断できる。
本企画ではそんな状態を見ていくことを主としたが、普段の入庫エンジンに対する作業では、ひとつひとつのパートで出てきた状態を画像に収め、メモし、場合によっては測定も行って、次に控える作業=リフレッシュやスープアップに向けた算段が立てられている。新品があるものは新品交換、ない場合も再使用が可能ならばその程度を知り、必要な処理を行って使う。
中川さんは作業を行いながら主なチェックポイントを挙げてくれる。大物ならカム山のかじりや対となるロッカーアームの摩耗、軸受けとなるカムホルダーの傷。ピストンはトップに堆積したカーボンにサイドの当たり、ピストンピンの填まり具合(きつ過ぎず、緩過ぎず)。コンロッドの曲がりにクランクジャーナル(軸部)の傷にクランクメタルの当たりや傷もと続く。
測定して判定するものもあるが、目視でもある程度の判断はできるし、他のパートや外部からの影響の判断にもつながるから、よく見ていきたいとも言う。また、いわゆるショートパーツ、消耗品についても配慮が必要だ。キャブレターをマウントするラバーにスターター内部のラバーダンパー。
オルタネーターのダンパーにチェーン。オルタネーターチェーンテンショナーも張力を維持する支持部が減って細くなり、強度が落ちているというような意外な部分もある。カムチェーンも交換前提と、ざっと見てもこんなにある。これらは、用意しておくべきものとして考えておきたい。
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必要な作業は今こそ行いこれからを維持したい
このエンジンはフルノーマルで開けられた形跡がないこと、走行距離も比較的少なめ。オイル管理も適切に行われたと分かった。
各部はこのあと洗浄と測定を行い、使えるものは改めてパーツごとにストックされることとなった。ドッグの減りがなかったミッションや、良好だったクランクやカム。純正廃番のこれらは今後必要に応じてジャーナルラッピングやR-Shot#M処理(表面強度や摺動性を高め、寸法も使用可能範囲内で再生・維持できるTGナカガワオリジナルの手法)を受けて使う場合も出てくるだろう。
TGナカガワではニンジャ系エンジンに多くのチューニングメニューを用意している。ZZRではオーバーホール&1108cc仕様に吸排気段付き修正やバルブシート打ち替え/リング合わせ等を行うステージ1メニューが人気という。そこにも、今回のような分解&チェック、その後の対策作業が入るのは前提となっている。代表の中川和彦さんがもう10年以上提言してきた「ニンジャ系エンジンは、パーツがなくなる前にリフレッシュを」は、ZZRも同じだ。今やれば、そこから長く乗れる。その間に新しい対策が出れば、それも適用できるかもしれない。そのためにも、今、見直したいのだ。
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エンジンをスタンドにセットしSTART!
エンジンスタンドにエンジンをセットし、シリンダーヘッドカバーを外す。次いで背面のオルタネーターを外す。豪さんはレースも含め多くのメカニック経験も持ち、ニンジャ系エンジンの作業も多く行っている。
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補機類を外し、各カバー類を外していく
オルタネーターに付く十字型のカップリングブレード(上写真指示部)はセンターボルトの緩みが見られやすい。ブレードの各くぼみに入る4つのラバーダンパー(中&下写真)も経年で固くなったり縮んだりして音の原因になる。アイドリング付近でコトコト音がする時はこれらが要因だ。
シフトシャフトにはシャフト位置決め用ワッシャが1枚(上写真のシャフト上、下写真のスプロケットカバー内側)入るが、ないことが多い。ないとカバーのシャフト受け内側が削られ、シフトフィールが悪化する。
右側ケースカバー裏のオルタネーターシャフト潤滑パイプ(中写真)の折れ、この向かい側=クランクケースに入るオルタネーターシャフトのナット削れも注意。
カバー類のボルトはマニュアルと照合して正しいサイズか確認。
インシュレーターはヒビがあるとエンジンの調子が不安定になってしまうので、ヒビを見つけたらすぐ交換したい。
前後のウォーターパイプを外す。中写真や下写真で分かるように取付部にサビが出てかじり、外れにくかった。
前側パイプも外す。覗くとシリンダースリーブ外側にも赤さびが見られた
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エンジンオイルを抜きオイルパンを外し全体の状態を大まかに把握&推測する
ドレンボルトからエンジンオイルを抜き、オイルフィルターとオイルパンを外す。オイルに濁りや異物はなく、このエンジンは大外しはなさそう。
オイルフィルターは上からカバー/エレメント(本体)/ワッシャ/スプリングの順で入るが、ワッシャがなくなりやすい点に注意したい。
オイルパンにはスラッジはなかった。
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点火プラグを外し背面のボルトを外してカムチェーンテンショナーをチェック
上側に戻り、点火プラグを外す。焼けは良好。装着はワッシャが当たるまで手で締め、そこから1/4~1/2回転、ワッシャを潰すように工具で行う。次いで左側のトップチェーンガイドを外す(2枚目写真)。裏にはスライダーがあるので当たりを確認(最下段写真)。ここでは素性が不明なので交換を決めている。
シリンダーブロック左背面のキャップボルトと2個の取付ボルトを外し、カムチェーンテンショナーを外す。ノンリターンタイプなので戻らないのが基本だが、テンションが効かずカムチェーンを押し切れないものもあるという。最下段の写真はカムテンショナーが出きってこれ以上チェーン(ガイド)を押せない状態。テンショナーは基本は新品交換だ。
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カムホルダーやカムシャフト、ロッカーシャフトを外してそれぞれの状態をチェックしていく
インテーク側からカムホルダーを外し、カムを外す。カムホルダー(中写真)は削れこそなかったがわずかな傷が見られた。今までならNGとしたが、TGナカガワではR-Shot#M処理で摺動面の回復と処理以後の長期的な面保護を可能としている。
下側カムホルダー(ヘッド)は状態良好で油膜も良かったと推量。吸気側カム山はわずかなかじりが見られる程度で、ロッカーアームの摺動面も大きな問題はなかった。排気側のカムシャフトも外し、カムチェーンを落とし、ロッカーシャフトを外す。ここも摩耗は少なく再使用可能だった。
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オルタネーターのチェーンやダンパーの状態を確認してヘッドを外す準備を
クラッチ前側にあるオルタネーター(充電系)の前ボルトを外し、オルタネーターシャフト右のカップリング(中写真で支えている)、オルタネーターチェーンを外す。チェーンの硬化や切れに注意。オルタネーターチェーン切れでのクランクケース破損もあるという。なお、このオルタネーターギヤはA8ニンジャ以降で幅広化されている。
カップリング内には左側同様にラバーダンパーが入る(上写真)。硬化や縮みがあれば交換。最下段写真のオルタネーターシャフトチェーンテンショナーは下のシャフトが細くなってしまうこともある。その場合には交換することを勧める。
カムシャフトが外れたら、シリンダーヘッドを外す。先にシリンダーヘッド前下左右のシリンダーヘッドボルト(6mm)(三枚目写真)、パルサーカバー内側上のシリンダーヘッドボルト(6mm)(下写真)の3つのボルトを外し、シリンダーヘッド内のスタッドボルトを外す。3つのボルトは先に外さないと折れるケースもある。なお、今回は通常のエンジンオーバーホールやチューニングで行うシリンダーヘッドの分解(バルブやバルブスプリングなどの取り外し)は行わなかった。
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シリンダーヘッドを外したらピストンとシリンダー内壁を確認しカムチェーンやピックアップコイルをチェック
シリンダーヘッドを上に外すと(上写真)シリンダー上面とスリーブ内壁、ピストントップが見える状態になる。ライトも使いながら目視で状態を確認(中写真)。ピストンはZZR1100純正の鋳造品が使われていることが分かった。ピストン/シリンダーとも傷はなく、カーボン堆積も普通で、程度は悪くないとのこと。
点火タイミングを拾うピックアップコイル。GPZ900R・A12以降に同じ1コイル式で、そのコイル(2枚目写真)を外す。タイミングローター(最下段写真で外している)の突起とピックアップ部の間隔は0.5~0.9mmが適正だが0.2mmでも組めて、エンジンはかかる。だが双方が接触したりしてエンジンがかからなくなるので適正に。
シリンダー後ろに入るカムチェーンガイドのピボットボルトを外し、カムチェーンガイドを抜いてチェック。2枚目写真で指示しているのはカムチェーンテンショナーで押す部分で、ここがつぶれてしまうことも多い。この個体のものは良好で柔軟性も保持していた(3枚目写真)。カムチェーンは要交換パーツだ(最下段写真)。
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シリンダーブロックを外してもう1度確認する
ヘッドを外す際にスタッドも抜けているので、シリンダーブロックを外す。シリンダー内壁を改めて明るい場所で目視。樽形形状やクロスハッチが維持できてない場合は加工、TGナカガワではホーニング時にクロスハッチの再施工も可能だ。
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ピストンを外して使用状況を推量。クラッチバスケットの打痕も見る
ピストンが露出。スカートの当たりはまあまあの状態(豪さん)。この後クランクケース側に布を置いてピストンピンクリップが中に落ちないようにしてピストンを外す。ピンも曲がりなくスムーズに入る良好な状態(2枚目写真)。コンロッド小端も傷なしできれい。ピストン(後ろでのコンロッドも)には後のチェックや加工のため気筒番号を刻んでおく。
露出した各部もチェック。クラッチバスケットには外周に連続した打痕が入ることがある。これはオルタネーターチェーンの暴れによる。見かけたら当該部を対処する。次いでクランクケースをひっくり返し、オイルポンプを外す(4枚目写真)。ケース裏のボルトは9mm、6mmの中に1カ所だけ7mmがある(最下段写真)ので気をつける。
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裏返してロアケースを外し、クランク/ミッション/クラッチが出てくるとゴール間近
エンジンを裏返したら、各ボルトを緩めてロアクランクケース(下側クランクケース)を外す(上写真)。クランクシャフト、ミッション、クラッチが露出する(2枚目写真)。ロアケースにはシフトフォークやバランサーシャフトなども残っているので左上ブロックのようにチェックしていく。全バラのゴールは近い。
ロアケースに残るシフトフォーク(上写真。ギヤを動かして組み合わせを変える)は折れや削れはなかった。エンジン前左下に入るバランサーシャフト(2枚目写真)はガタを確認し、ガタつきがあるようなら交換。ミッションは各ギヤの歯とドッグ(3枚目写真指示の突起部)、溝(最下段写真でドッグが入る部分)の欠けやヘリがないか見る。
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クランクシャフトを抜いてメタルをチェック。全体的に良好と分かる→FINISH!
クランクホルダーを外すとクランクシャフトが抜ける。コンロッドを外して曲がりがないか確認し気筒番手を記す。クランクの軸受けとなるメタル(上&下写真)の当たりや減りを確認。総じて、状態のいいエンジンと分かった。3枚目写真はクランク軸受け部で、きれいだが、出荷そのままのエッジ/バリも見える。TGナカガワではこうしたエッジも落とし、以後の安心感も高める作業も基本としている。
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生産終了のカムシャフトはラッピング+R-Shot#Mを勧める
TGナカガワのR-Shot#M処理は、ZZR1100で純正廃番のカムにも適用できる。写真はその施工例で、光沢があるカム山とジャーナル(軸)はラッピング(平滑研磨)。大写真のマットグレー部はさらにR-Shot#Mを加えたもの。使用範囲内ならほぼ再生状態でよりスムーズ化される。前者は1本1万6500円、後者は開発中だ。