安心して乗れるエンジンを目指し、出力を向上しつつ耐久性も高めるチューニングを行ってきたトレーディングガレージ ナカガワ。純正パーツの減少にも極力対応できるよう、エンジン内部パーツにも有効なR-Shot#M処理も加えてからも5年近く経つ。だが今、補機類や周辺パーツにもパーツ減少の波が及び、そこにも注意してほしいという。何が今できるのか、耳を傾けてみよう。
※本企画はHeritage&Legends 2024年2月号に掲載された記事を再編集したものです。

パーツ事情に配慮しつつ長寿化を狙う処理を推奨

開店から30周年。主力をエンジンチューニングに置き、ニンジャ=GPZ900R系はその中心となっているトレーディングガレージ ナカガワ(TGナカガワ)。紹介する車両は開店以来の付き合いがあるお客さんのものだという。

画像: ▲1024cc化後20年を超える履歴を持つ車両は2度のO/Hと+R-Shot#Mで好調を続けるTRADING GARAGE NAKAGAWAのGPZ900R。各部の詳細は こちら のザ・グッドルッキンバイクページをチェック!

▲1024cc化後20年を超える履歴を持つ車両は2度のO/Hと+R-Shot#Mで好調を続けるTRADING GARAGE NAKAGAWAのGPZ900R。各部の詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!

よく手入れされたきれいな姿からは、前後17インチホイール化ほか細部にまで手が入っていることも分かる。エンジンにもTGNパーツによるヘッドへのオイルバイパス追加、同じくヘッドカバーへのTGN・DOS-R(ダイレクトオイルシステムR)でニンジャの弱点となる吸気側カムまわりの潤滑力を高め、TGN・DIS(ダイレクトイグニッションシステム)も装着して点火も確実化&強化と、まず必要と思われるメニューが施される。

「内部もヨシムラST-1カム、φ75.5mmピストンにGPZ1000RXの軽量加工クランク(ストロークは58mm)を組み合わせて、当店のチューニングを加えています。排気量は初期に作った1024ccで楽しまれて、まだ長く乗るということで2度目のO/H時にR-Shot#Mもフルに施しました」

画像: ▲'24年が開店30年となるトレーディングガレージナカガワ。代表の中川和彦さんは、ニンジャエンジンの高出力化などチューニングと耐久性を両立できるように多くのノウハウをメニュー化してきた。

▲'24年が開店30年となるトレーディングガレージナカガワ。代表の中川和彦さんは、ニンジャエンジンの高出力化などチューニングと耐久性を両立できるように多くのノウハウをメニュー化してきた。

TGナカガワ・中川さんは言う。R-Shot#MはTGナカガワオリジナルの表面処理。対象物の表面に二硫化モリブデンを混入したメディア(担体粒子)をショット(高速打ち付け)して対象物の表面強度を高め、かつ摺動抵抗を減らす手法だ。対象物の寸法を維持してくれる特徴もあり、長期定着性も確認されているから、測定して許容範囲内にあるエンジン内部の中古パーツも再使用できるなど、多くのメリットがある。

登場してから5年を超えようとする中で、エンジンチューニングを依頼する、再オーバーホールする時に合わせてオーダーするユーザーも増えた。この車両のオーナーのように長い付き合いのお客さんへの浸透率も高く、施工後のエンジンが過渡特性も合わせてスムーズになったことを体感できたという例も複数聞いている。このように、今や欠かせないメニューと言えるほどに、R-Shot#Mの存在は大きい。

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いかにパーツを揃えるかがこれからの最大のポイント

そんなメニューを持つTGナカガワだが、中川さんはこれだけでは安心できないんですよと言う。

「何度もお話しているんですが、エンジンに手を入れるならとにかく早めに。ニンジャでは絶対になりました。オーバーホールもチューニングも、考えているのなら極力早くです。そう言うのですが、私たちもお待たせしているお客さんが多いのが心苦しい状態です」

中川さんは早めの作業を勧める。これに矛盾するようだが待たせているというのは、TGナカガワ側ではなく、パーツ事情の影響だ。そんな外的要因が強い。

画像: ▲純正欠品が進むエンジン内部パーツは要注意だ。写真はGPZ900Rエンジンの主要内部パーツ(左下はFCRキャブレターの浮動バルブ)。エンジンに手を入れるにはあって当たり前で、ピストンやミッションのギヤの一部、メタルの一部がないのは厳しい。TGナカガワでは写真のように各パーツにR-Shot#M処理を施し(右上のオイルポンプや左のシフトドラム、シフトフォークも)、今後の維持性を高めるようにする。

▲純正欠品が進むエンジン内部パーツは要注意だ。写真はGPZ900Rエンジンの主要内部パーツ(左下はFCRキャブレターの浮動バルブ)。エンジンに手を入れるにはあって当たり前で、ピストンやミッションのギヤの一部、メタルの一部がないのは厳しい。TGナカガワでは写真のように各パーツにR-Shot#M処理を施し(右上のオイルポンプや左のシフトドラム、シフトフォークも)、今後の維持性を高めるようにする。

「皆さんもご存じとは思いますが、純正部品の欠品がかなり多くなりました。ピストンにクランク、カムシャフトにメタル、ミッション……と、挙げていくと結構ないんですね。しかも要るものばかり。もう、15~20年前の空冷Zと同じ状況と思っていいです。ですが代替パーツはZほどにはない。

欠品でないパーツも価格が上がり続けていますし、発注しても時間がかかるものは多いです。この傾向は今後も続くでしょう。ということは、同じ作業をしても予算がかさむということです。例えば仮に工賃を同じと考えても、今100万円でできていたことが、次は150万円ということもある。これも理由のひとつになります。

ないパーツはどうするかというと、使えるレベルのものは手を入れて使います。カムシャフトやクランクはその代表です。両者ともラッピングは必須になっています。軸部分を確認、測定して、使えるなら治具上で軸表面を平滑化(ラッピング)します。

クランクメタルも、以前は距離で管理してそれを超えていたら廃棄でよかったものが、入手困難になってできなくなりました。マイクロゲージで計測し、使える厚みならR-Shot#Mを施して使う。これで耐久性と潤滑性は上がります。施工に時間とコストがかかるのは理解いただきたいです」

元々、パーツがないことを補うために今残ったものを活用する手法としてR-Shot#Mは生まれた。ラッピングも、重量合わせやバランス取りなどの他のナカガワエンジンメニュー同様に、出力を高めたり、作動のスムーズ化からロスの低減を狙うように考えられていた。それが、中川さんが常々考えていた“壊れないため(これまでも“セキュリティのアップ”として表現していた)”の側面が強くなったと考えていい。

これらの手法を加えることによって延命できた車両、エンジンは増えた。それでも何かひとつのパーツがなければ完成に至れないという点を解決できないかと中川さんは続けて考えている。

画像: ▲今は冷却系パーツの状態も要確認。冷却系に水を回すウォーターポンプ(現状は代替純正品で対応)やウォーターパイプは純正欠品。社外ラジエーターやオイルクーラーのコア、フィッティングも今は入手が難しく、対策を模索中という。余裕をもって依頼したい。

▲今は冷却系パーツの状態も要確認。冷却系に水を回すウォーターポンプ(現状は代替純正品で対応)やウォーターパイプは純正欠品。社外ラジエーターやオイルクーラーのコア、フィッティングも今は入手が難しく、対策を模索中という。余裕をもって依頼したい。

「エンジンも、本体だけでなく補機類も配慮しないといけなくなりました。ウォーターポンプにウォーターパイプ、電装もそうですね。後付けの部分でもラジエーターやオイルクーラーのコア、フィッティングの供給が安定してなくて、これも影響を受けています。この点については私たちも含めて解決策を模索しています」

入庫してくる車両の素の状態を見ていくと、電気系と水まわりの劣化が進んでいることが実感できると中川さんは続ける。

「エンジン、電気、水と挙げましたけど、車体側もあります。リヤのリンクに入るブッシュ。廃番品で、劣化を見落としがちです。リヤサスのオーバーホールと合わせて見てみるとボコボコだったり、入庫時点でギコギコ音がしていたり。せっかくの足まわりが機能しませんから、特注焼き入れ加工したものを作って対策しています」

確立された多くのメニューによるエンジンの高性能化&長寿化だけでなく、その性能をきちんと楽しめるような配慮を車体側にも向けてほしいという考え。難しくはなったが、今なら手が打てる。そこに期待したいし、そのためにTGナカガワに作業の相談や依頼をするのは正しい手法だと思える。

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これからのためにエンジン外観リメイクも人気

画像1: GPZ900Rニンジャのエンジンはやるなら極力早め! 補機類や周辺パーツにも配慮を|トレーディングガレージ ナカガワ【Heritage&Legends】
エンジンパーツを全分解してマスキングした後にサンドブラスト、砂抜き完全洗浄して再マスキングし塗装、最終確認したら組み立てる外観レストメニューの「外観リメイク」。写真の仕上げで20万9000円。外観のみでも対応可能で、このところ増えたという。TGナカガワへエンジンコンプリート作業を行う際に合わせて行うと内/外とも長寿化できる。

高速回転するクランクも欠品パーツ

画像: 高速回転するクランクも欠品パーツ

画像2: GPZ900Rニンジャのエンジンはやるなら極力早め! 補機類や周辺パーツにも配慮を|トレーディングガレージ ナカガワ【Heritage&Legends】
TGナカガワではジャーナル=軸部の丸さを損なわずに軸表面をきれいに磨き込んで傷を消し平滑度を高め、回転のスムーズ化を図り以後のダメージを抑えるラッピングクランクシャフトメニューを用意。2万5300円。ダイナミックバランス処理込み3万8500円。

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カムも延命措置が大切

画像3: GPZ900Rニンジャのエンジンはやるなら極力早め! 補機類や周辺パーツにも配慮を|トレーディングガレージ ナカガワ【Heritage&Legends】
吸気側カムが先頃純正廃番となったため、現存するものの延命を図る。軸径を測定して許容範囲内、傷が深過ぎないならリビルドカムシャフトサービスが使える。カム山4カ所とジャーナル部に施すラッピング処理(下)は1万6500円、さらにカム山にR-Shot#M処理を加える(上)も開発・価格検討中だ。

カム&クランクはラッピング必須を心得る

画像4: GPZ900Rニンジャのエンジンはやるなら極力早め! 補機類や周辺パーツにも配慮を|トレーディングガレージ ナカガワ【Heritage&Legends】
クランク軸とクランクケース間に入るクランクメタルも一部欠品。精密測定して使えると判断したものにR-Shot#M処理を施して使う。耐久性の向上に加えて摺動抵抗低減の効果も得られる。このような工夫が随時進められる。

バージョンアップしたDOS-EVO登場!

画像: バージョンアップしたDOS-EVO登場!

画像5: GPZ900Rニンジャのエンジンはやるなら極力早め! 補機類や周辺パーツにも配慮を|トレーディングガレージ ナカガワ【Heritage&Legends】
ヘッドカバーから吸気側カムまわりにオイルを噴射しカムのダメージ予防に使われるダイレクトオイルジェットシステムDOS-R。これがバージョンアップしたDOS-EVOが登場。ヘッド右側の追加パーツ有無にかかわらず装着可能な利点を加えた。7万2600円(改定予定あり)。

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コンプリートメニューも多彩に設定

画像6: GPZ900Rニンジャのエンジンはやるなら極力早め! 補機類や周辺パーツにも配慮を|トレーディングガレージ ナカガワ【Heritage&Legends】
TGナカガワではGPZ900Rエンジンのチューニングパッケージを用意する。STAGE-1[#920](66万8800円)は920ccでO/Hより1ランク上のポテンシャルを発揮する、ストリートでは十分なバランスを備える。STAGE-2[#972](80万3000円)はあらゆる条件での使用を想定し、高出力と耐久性を両立させた仕様。STAGE-3[#1050](97万9000円)はGPZ900Rの55mmストローククランクに「TGN#1050キット」を組み合わせる。STAGE-4[#1078](103万4000円)はコスワースφ79mmピストンを使った、GPZ900Rペースでの最高峰設定。価格はいずれも改定予定。R-Shot#M処理などの追加処理も用意される。詳細は問い合わせを。

車体側もリンクブッシュなどに注意

画像7: GPZ900Rニンジャのエンジンはやるなら極力早め! 補機類や周辺パーツにも配慮を|トレーディングガレージ ナカガワ【Heritage&Legends】
車体側にも要注意のポイントがあると中川さん。リヤサスのリンクに入るブッシュ(ボルト貫通部に入り、作動をスムーズにする)がダメでリヤサスの動きが悪くなることが多く、サスオーバーホール時などに一緒に整備しておくのがお勧め。同店では対策品を作って対処している。

レポート:ヘリテイジ&レジェンズ編集部

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