文:中村友彦/写真:渕本智信/取材協力:ラボ・カロッツエリア
Z900RSをまったりペースで走らせてもメリットを体感
基本的にはかなりの好感を抱いているし、よくぞこういうモデルを作ってくれた! とも思っているけれど、諸手を挙げての絶賛はしづらい……。僕にとってのZ900RSは、そういう位置づけである。諸手が挙がらない理由は、開け始めで唐突さを感じるスロットルレスポンス、輸出仕様よりメイン座面の肉厚が35mm薄く疲れやすいシート、作動感が上質とは言い難い前後ショックなど。逆に言えば、気になる部分にカスタムを施した自分好みのZ900RSを、何度も夢想してきた。
感情的な表現をするなら、ワイルドでぶっきらぼうな部分を削ぎ落とし、もう少しマイルドで優しくならないものか。改めて振り返ると、過去にZ900RSで3度のロングツーリングに出かけた際は帰路でいつも心身が疲れ、往路のような楽しさが味わえなくなっていたからだ。もちろん、疲労はバイクを評価する要素のひとつに過ぎないし、疲労に対する見解はライダーの体力や感性によって異なる。でも例えば同じカワサキのニンジャ1000/650やZX-14R、ZRX1200DAEGなどと比較すると、Z900RSは良くも悪くも、突っ込みどころが多いバイクだと思う。
そんなわけだからオーリンズのデモ車には、気になる要素の解消を期待していた。そして実際の解消度合いは予想以上で、フロントにFKS511 NIX30カートリッジ、リヤにS46DR1LSを装着したZ900RSは足まわりだけではなく、スロットルレスポンスとシートに対する印象までもが変わっていたのである。
ちなみにオーリンズと言えば、世間では〝スポーツ指向のエキスパートライダー用〞という印象を抱く人がいるようだが、それは完全な誤解で、同社の製品は〝ツーリング指向の一般的なライダー〞でも、十分に恩恵が感じられる。このあたりは近年の大排気量車スポーツで増えてきた、標準仕様とオーリンズ仕様を同条件で乗り比べれば如実に理解できること。オーリンズ仕様は市街地をまったり走っていても、ノーマルとは一線を画する高級感が味わえるのだ。
さて、前置きが長くなったが、ここからはいよいよインプレ編。オーリンズ仕様のZ900RSで市街地を走り始めて最初に興味を惹かれたのは、前後サスのストローク感だった。ノーマルのZ900RSには、リヤを中心軸として、フロントが扇形の円運動をしているような感触があるのだが(公称ホイールトラベルは、フロント:120mm、リヤ:140mm)、オーリンズ仕様は中心軸が車体センター寄りに移動しているようで、前後サスが均等に近いイメージで動いてくれる。言ってみれば、旧車風の味付けと言いたくなるノーマルに対してオーリンズ仕様は現代のスポーツバイク的で、もちろんショック単体の動きは、オーリンズのほうが圧倒的に上質。ではそういった違いが、乗り味にどんな変化をもたらすのかと言うと……。
オーリンズ装着車でロングラン! 疲労はノーマルの半分以下
移動区間の高速道路を経て荒れた路面の酷道から見通しがいい快走路まで、さまざまなシチュエーションをオーリンズ仕様のZ900RSで数時間ほど走って僕が嬉しくなったのは乗り心地のよさ、路面の凹凸の素早い吸収力だった。中でも高速域で大きめのギャップを通過したときの挙動は圧巻で、ノーマルと比較すると、ライダーに伝わる衝撃が大幅に緩和されている上に車体に衝撃の余韻がほとんど残らない。だからノーマルでは回避か減速を選択したくなるギャップでも、オーリンズ仕様は、何とかなるさという気分でそのまま突っ込んで行ける。
それに続く嬉しい要素は、フロントブレーキタッチの向上だ。フォークの動きにいまひとつ掴みどころがないノーマルは、フロントブレーキをかけた際、時としてカックン(?)的な挙動を示すことがある。オーリンズ仕様は入力初期からロック領域まで利き方が非常にリニアなので、どんな状況でも自信を持って減速できるのだ。
ブレーキタッチの向上といえば、マスターシリンダーやブレーキパッドの交換が頭に浮かぶものだけれど、フォークでもフィーリングは大きく変わるのだ。なお後に輸入販売元のラボ・カロッツエリアに聞いたところ、今回のフロントまわりの印象変化は、純正カートリッジと比べてカートリッジ自体の剛性が飛躍的向上していることで組み込み後は純正フォーク自体の剛性も向上するなど、様々な好影響を与えているという。
と、まずは嬉しい要素を記してみたが、今回の試乗で最もビックリしたのはコーナリング前半〜中盤の絶大な安定&安心感だった。バイクを操る上で、どんな部分に難しさや怖さを感じるかと言ったら、一番はやっぱり直進状態から任意のバンク角に移行する途中の過渡領域だろう。事実、Z900RSのノーマルはその部分が万全ではなく、見通しが悪いコーナーや、見通しがよくても曲率が強いヘアピンカーブなどでは車体の挙動が落ち着かず、ギクシャクすることが少なくなかった。
ところがオーリンズ仕様は、バンク角が中途半端な過渡領域でも車体が後方から引っ張られているような、あるいは可変式補助輪でも備わっているような安定&安心感が得られるから、車体を傾けることに不安を感じないし、傾けてからのバンク角の微調整も至ってイージー。しかも、コーナーの前半〜中盤が安心してこなせることで、ライダーの心には余裕が生まれ、立ち上がりでは走行ラインを自由自在に選択できるし、スロットルも早い段階から開けられる。
だからオーリンズ仕様はノーマルより安心して速く走れるのだが、それでいて乗り手に速さを強要する気配はまったくなく、キャラクターはマイルドで優しい。そしてこの特性であれば、ロングランも快適にこなせるに違いない。そう感じて、当初の予定を変更して撮影後に距離を伸ばし、トータルで約14時間をかけ、500km以上を走行。21時過ぎに自宅に着いた際の心身の疲労は、ノーマルの半分以下という印象だった。
なお試乗後半での発見は、スロットルレスポンスの唐突さが徐々に気にならなくなったこと、そして日本仕様のローシートでも、尻があまり痛くなかったことである。もっとも、乗り心地がよくなったのだから尻の痛みも軽減されて当然だが、前後ショックの上質な動きがスロットルレスポンスにまで影響を及ぼすのは意外だった。まあでも、スロットルの開けやすさは車体の信頼感で変わるから、オーリンズ仕様で唐突さが適度に改善されたことも当然と言えば当然なのかもしれない。
そして発見はもうひとつ。なし崩し的に立ち入ったフラットダートが、思いのほか無難に通過できたことも嬉しい発見だった。と言っても、実はノーマルのZ900RSでフラットダートを走ったことはなく(走ってみようと思ったこともかったが)、マイルドで優しいオーリンズ仕様に乗っていると心の中にチャレンジ精神が芽生え、守備範囲を広げたくなる。
いずれにしても今回の試乗で今まで以上にZ900RS自体にも好感を抱き、それがオーリンズ仕様ならば諸手を挙げて絶賛したい! と感じたのだった。
オーリンズは幅広い調整機能で、あらゆるライダーに対応
NIX30のダンパーは左右独立式で、トップキャップ左にCOMP:圧側、右にREBOUND:伸び側ダンパーアジャスターが備わる。プリロードは無段階の調整が可能。
フォークスプリングはシングルレートの9.0N/mmが標準で、右側ボトムに備わる純正の圧側アジャスターは、NIX30装着時には機能を停止する。
S46DR1Sのアジャスターは、プリロード/伸び側ダンパー/車高=自由長の3種。自由長の調整範囲は、足着き性の向上にも意識して-2mm~+4mmとされる.
文:中村友彦/写真:渕本智信
取材協力:ラボ・カロッツエリア
まとめ:ヘリテイジ&レジェンズ編集部
※本企画はHeritage&Legends 2020年5月号に掲載された記事を再編集したものです。