文:宮崎敬一郎、八代俊二、オートバイ編集部/写真:南 孝幸
KTM「1290スーパーアドベンチャーS」インプレ

KTM 1290 SUPER ADVENTURE S
総排気量:1301cc
エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブV型2気筒
シート高:849/869mm
車両重量:227kg
税込価格:239万円
オンもオフも贅沢に楽しめるフラッグシップ
新型のKTM1290スーパーアドベンチャーSは、強度のみならず、大幅なディメンションの変更を目的とした車体の大変更を受けた。
その目的はオンロードでの旋回性、コーナーからの立ち上がり加速、安定性に貢献する前輪荷重の増大。ステアリングステムパイプ位置を手前にし、スイングアームを延長。ラジエターを2分割にしないと収まらないほどエンジンも前傾させている。

▲KTMのトラベルモデルらしい、ユニークなスタイリングイメージは先代のものを引き継ぐが、車両下部まで下げ、左右に振り分けた独特な燃料タンク形状はダカールマシンで培ったノウハウ。これにより大柄な車体ながら低重心化が図れ、取り回しの良さにも貢献している。
もともとオールマイティな「S」でも、ビッグアドベンチャークラスの中ではオフ指向は強め。酷路に対する走破性や扱いやすさは、このカテゴリーの王者であるBMWのGSすら凌いでいる。だから新型はオンロードでの安定性向上に舵を切ったのか、と最初は思ったのだが、そうではないようだ。
実際試乗してみると、新型はあらゆる道に挑戦したがる冒険バイクで、酷路での扱いやすさも犠牲にしていない。ただ、大きく車体を変えた分、ハンドリングが変っていないわけがない。
高速ワインディングは今回試していないが、2速で回し切るくらいの中速ワインディングでは、アドベンチャーらしくない身軽な運動性でバランスのいい旋回性を発揮する。街中や高速巡航ではどっしりとした大きなバイクという感触だが、峠ではまるでバイクが小さくなったような感触。
試乗車はスロベニアの「ミタス」というタイヤを履いており、今回初めて触ったのだが、試乗中は非常にナチュラルで不安のない応答をしてくれた。
このSは各種ライディングモードで制御できるIMU応答型の高度なライディングアシスト群が装備されていて、前車追従システム搭載のクルコン・ACCとセミアクティブサスはSのみに装備されている。
エンジンは「スポーツ」モードでどこでも操れる扱いやすさがある。足回りは「スポーツ」だと少々硬いが、峠道では身のこなしがダイレクトになり、荒れた路面でもかなり大きくスロットルを開けられる。

色々な道を試乗した挙げ句に落ち着いたのがオプションのパッケージを装着すると選択が可能になる「オート」モード。快適にクルーズし、峠でも遊べる。今回の撮影時はほとんど「オート」を選択している。「オフロード」モードは足がしなやかに変化し、リアが少し下がり、前荷重を抑えてフロントの動きを軽くしてくれる。
KTMのフラッグシップであるこのモデル、オンだけでなくオフでの強さもかつてより際立っている。今回の進化で、使い方によって選べる贅沢な快適性と扱いやすさを手に入れ、ハンドリングも大きく、上質に進化したのだ。
KTM「1290スーパーアドベンチャーS」最新テクノロジー「ACC」を試す!
レーダーセンサーが切り開く快適クルージング!
ドゥカティのムルティストラーダに続いて、このKTM 1290スーパーアドベンチャーSにもアダプティブクルーズコントロール(ACC)が投入された。ツーリングに革命をもたらすこの最新テクノロジーの威力を、両車に試乗した八代俊二氏に語ってもらおう。

KTMらしいスポーティさに満ちたセッティングが光る!
新型KTM1290スーパーアドベンチャーSに装備されたアダプティブクルーズコントロールは、最近流行の死角にいる車両を検知してライダーに知らせる警告機能などは備えていないが、よりスポーティなライディングを可能にするため、2つのモードから好みに合ったモードを選択出来るようになっている。
今回の試乗では首都高速と東名高速道路を使ってACCを試した。車間距離を中間の3段目(車間距離は5段階から選択可能)にして、交通量の多い東名高速でスタッフの運転するKTM890アドベンチャーをターゲットに「コンフォート」モードで走ってみると、スピードの変化が少ないこともあり、極めてスムーズに追走する。
しかし、勢いよく加速されると、いかにビッグツインとはいえ6速ホールドのままでは追走は厳しく、さすがにギアチェンジをしたくなる。シフトダウンして再加速すれば、すぐさま遅れを取り戻してくれるのでストレスにはならない。
この際、クイックシフター+が未装備だとクラッチ操作が必要になり少々面倒になるので、ロングツーリングをより快適に楽しむならクイックシフター+は必須だ。
一方、道路の勾配やカーブの大きさが目まぐるしく変化する首都高速道路で「スポーツ」モードを試したところ、前車の動きの変化に素早く反応して車間距離と車速をキープしてくれ、ツイスティな首都高速道路も小気味良く走ることが出来た。
構成はシンプルだが、レスポンスを高めた新しいACCはKTMらしいスポーティさを感じさせる。

ACC-Distance
車間距離の設定は5段階の中から選択可能。モードは加減速のスムーズな「コンフォート」とダイナミックに加減速をおこなう「スポーツ」の2モードが用意されている。

写真左がブレーキを制御するMSCユニットとIMU、写真右がフロント部のレーダーセンサー。これらとECUを結んでシステムを構築する。