文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2022年3月5日に公開されたものを転載しています。
気になる125cc相当電動スクーターの販売は、ちょっと先のことになりそう?
ヤマハはスイッチを入れた・・・というお題のこの発表では、6つの電動パーソナルモビリティの存在が明らかにされました。そのうちの3つは電動モペットや電動スクーター、残る3つはEバイクのカテゴリーに入る製品でした。
今回の発表でバイクファン的に最も興味深い存在は、ヤマハ初の125cc相当の電動スクーター、E01プロトタイプ派生モデル(名称未定)でしょう。2019年東京モーターショーで公開されたE01よりもグ〜ンと市販車的な仕様にまとめ上げられていますが、この機種はすぐに市場に投入するわけではない・・・と、ヤマハモーターヨーロッパ社長兼CEOのエリック・デ・セインヌは説明しています。
デ・セインヌの説明によるとこの車両に関しては、政府機関や地方自治体の協力を得て、欧州主要都市を舞台に実証実験を行い、その経験から得られたフィードバックを反映した一般向けモデルを将来販売・・・というスケジュールを欧州ヤマハは考えているようです。その過程に要するのは「最大でも2〜3年後」ということなのですが、日進月歩の電動モビリティ界を考慮すると、欧州ヤマハはかな〜り慎重に事を進めるみたいですね・・・?
なお現状で、欧州では人口の8割が都市で生活しています。そういう人たちの「足」としての電動モビリティ需要に応えるため、欧州ヤマハは各種電動モビリティを開発しているのですが、E01プロトタイプ派生モデル(名称未定)についても、状況が変われば上述のスケジュールが前倒しされることも・・・あるのかもしれません? あくまでこれは憶測ですけど・・・。
50cc相当の電動スクーターの名前は、欧州の人には馴染みのあるものでした!?
125cc相当の電動スクーターの一般販売は先の話・・・でしたが、50cc相当の電動スクーターについてはもっと早い市場投入が予告され、すでに名前も決まっていました。その名は「NEOS」ですが、実はこの名前は1997年から欧州で発売されていたヤマハ製ICE(内燃機関)搭載スクーターに使われていたものです。またNEOSは、ヤマハ傘下のMBK(旧モトベカン)ブランドで「オベット」・・・イタリア語で卵の意味、の名前でも販売され、長年にわたり欧州にて多くのユーザーに愛されたモデルでした。
2019年東京モーターショーで紹介されたE01は、名前こそ未定ですが欧州の実証実験に供されるバージョンは外観テーマはほとんどそのまま・・・であるのに対し、この度発表された電動スクーターの「NEOS」は、同モーターショーで公開された50cc相当の電動スクータープロトタイプの「E02」とは全く違う外観なのが興味深いです(台湾でヤマハが協業するGogoroの、スマートスクーターっぽいデザインですね?)。
近年日本国内では、原付一種=50cc車のマーケットが1980〜1990年代のレベルに比べると圧倒的に縮小していることが問題になっていますが、欧州においても規制変更や125ccクラスのスクーターの伸張により、50ccクラスは同様に苦戦をしている・・・とのこと。ただし、電動スクーターという新たなトレンドによって、いわゆるモペッド免許で乗れるモデルへの注目が再び集まっている・・・と、欧州ヤマハのマーケティング&モータースポーツディレクターのパオロ・パヴェシオは動画内で語っています。
そんな欧州市場の期待に応える製品であろう「NEOS」については、今回の発表から2〜3週間後にその全てが明らかにされ、今年の春には欧州での販売がスタートする・・・とP.パヴェシオは動画内で語っています。遅くとも今年の4月頭にはその全容が明らかになるでしょうから・・・楽しみにその時を待ちたいですね!
すでに30年の実績を持つ、ヤマハの電動アシスト技術のブランド力!
続いて紹介されたのは、1990年代初頭からヤマハが先駆として力を発揮する電動アシスト自転車・・・を含むEバイクの分野の3機種です。この項について解説してくれたのは、欧州ヤマハのスマート・パワード・ビークル部門のディレクターであるクレメント・ヴィレです。
電動パワーアシストシステムを採用する「PAS」を発表してからの約30年間、ヤマハは700万機の同システムを生産しています。この数字は近年飛躍的に伸びているようですが、これはCOVID-19パンデミックの影響による需要増の押し上げ・・・とのことです。なおC.ヴィレの弁によると、欧州では昨年に500万台以上!! のEバイクが販売されたとのことです。
またC.ヴィレは、欧州ヤマハの見立てとして数年以内に欧州で販売される自転車の50%が、Eバイクになると語っています。ただ、ヤマハはOEMサプライヤーとして今までどおり顧客となるEバイクメーカーに対し、開発・供給で貢献する方針は堅持しつつも、100%ヤマハのモビリティ・ソリューションを求めるユーザーの期待に応えたい・・・ともコメントしています。
その意志のあらわれが、今回明らかにされた3種類のEバイク・・・というわけです。
今回公表されたEバイク試作車3機種・・・オール-マウンテン、グラベルロード、そしてシティサイクルですが、動画内ではそれぞれの製品にクローズアップするシーンがほとんどなく、いろいろまだ隠したいのかな・・・? と邪推したくなったりしました。
ただ、C.ヴィレによると、これらEバイクについては1年以内に欧州のショールームで実物を見ることができるようになり、今年後半のスタートの予定よりも、早くそれが実現する可能性もある、とのことです。また今年の夏ごろには、これらEバイク3機種の全仕様を公開し、メディア対象の試乗会も行われる予定とのことです!
ヤマハとファンティックのコラボレーションで生まれた「B01」!!
P.パヴェシオ、C.ヴィレによる解説の後、再び登場したエリック・デ・セインヌは、最後のプレゼンテーションとしてSペデレック(高速電動アシスト自転車)の「B01」を紹介しました。
イタリア車に詳しい方は、その姿を見てすぐにファンティックのイッシモを想起したのではないでしょうか? 2020年10月に欧州ヤマハはイタリアで2輪車エンジン製造を担うグループ企業だったモトーリ・ミナレリの株式を、業務提携相手のファンティックへ譲渡しています。この動きは、ヤマハとファンティックのパートナーシップを強化することが狙いでしたが、「B01」はその流れから誕生したモデルといえるでしょう。
エリック・デ・セインヌ(ヤマハモーターヨーロッパ社長兼CEO)
「ヤマハは、パーソナルモビリティのラインアップを拡大し、会社の歴史に新たな1ページを開くことができ、大変うれしく思っています。(中略)ヤマハの世界レベルの技術力に支えられ、プロフェッショナルなディーラーネットワークに支えられ、これらの新しい電動商品と関連サービスの導入は、新しい世代のお客様を刺激することでしょう」
今回の欧州ヤマハの発表は、この発表内容に対する反響を、今後の開発に活かすために行なっている節もあります。欧州に比べるとこの分野の発展が遅れ気味の日本の現状ではありますが、欧州で育まれたトレンドが今後の日本にも導入されることは十分考えられます。私たちの未来を予想するためにも、今後も欧州ヤマハの電動化への取り組みについては注視し続けたいですね!
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)