文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2022年3月10日に公開されたものを転載しています。
2022年1月に、メルセデス・ベンツと技術協力契約を結んだ、プロロジウムテクノロジー社とは?
2006年に設立されたプロロジウムテクノロジー社は、リチウムイオンバッテリーの火災などに関する安全面の懸念を払拭できる、固体タイプのLCB(リチウムセラミックバッテリー)開発・製造を手がける台湾企業です。
今年の1月末には、EV用固体バッテリー開発の技術協力契約をメルセデス・ベンツと締結したことがEV業界のニュースになりました。もっとも両社は、すでに2016年からEV用バッテリー開発に取り組んでいる間柄であり、上述の件は両社のパートナーシップを更に強化・拡大する契約といえます。
バッテリー技術に関して、世界で480以上の特許を取得しているプロロジウムテクノロジー社と、2EV用交換式バッテリープラットフォームの現時点での"覇者"であるGogoroが手を組むことは、ライバルたちにとっては大きな脅威に違いありません。
Gogoroが展開するGogoroネットワークは現在台湾を中心に2,300以上のGoステーション(充電スポット)を擁しており、PBGN(Gogoro連合)の電動スクーターを使う45万人以上のユーザーが毎日34万回!!のバッテリー交換を行っています(なおこれまでのトータルでのバッテリー交換回数は、2億6,000万回!! を超えているとのことです)。
従来型リチウムイオンバッテリーより、容量が140%以上増加!!
ホレス・ルーク(Gogoro創業者、会長兼CEO)
「Gogoroは、世界初の2輪交換用固体電解質バッテリーを発表します。それは私たちの都市で電動交通の成長と、普及の新時代を迎えるためには最新のバッテリーイノベーションを活用することが不可欠だからです。(中略)私たちは固体バッテリーの技術革新における世界的リーダーであるプロロジウム社と提携し、より高いエネルギー密度を実現し、航続距離を伸ばすための新しいバッテリーを共同開発しました。 安定性と安全性を向上させつつ、既存のすべてのGogoro規格車と互換性を持たせています」
現在Gogoroネットワークで使用されている2万1,700個の交換式リチウムイオンバッテリーは1.7kWhというスペックですが、現在開発中のプロトタイプの交換式LCB(リチウムセラミックバッテリー)は、2.5kWhまで容量増加を見込める・・・とのこと。これは「ターゲット・キャパシティ」なので実際のスペックではありませんが、目標どおりにエネルギー密度を向上させることができれば、その分航続距離を伸ばすことが可能になります。
またLCBは薄くて硬いセラミック層を持っています。"デンドライト"という樹状のリチウムが使用中に発生・成長したとき、この層はセパレーターに穴を開けることを防いでくれます。そのためリチウムイオンバッテリーで発生することがある恐ろしい火災事故が、LCBではほとんど起こることがないという安全性における大きなメリットもあります。
ヴィンセント・ヤン(プロロジウムテクノロジー創業者兼CEO)
「固体電池技術は、EVの未来に新たな局面をもたらします。私たちはこのGogoroのプロトタイプバッテリーを、将来商業製品として提供できることを楽しみにしています」
Gogoroとプロロジウム社が開発中の交換式LCBが製品化されれば、PBGN(Gogoro連合)の電動スクーターを使っているユーザーたちは航続距離と伸ばすことができ、バッテリー交換の手間を減らすことができるというメリットを享受することができます。
コストの問題や信頼性の確保など、両社が今後取り組まないといけない課題は少なくないのかもしれませんが、もし無事に製品化することができれば電動スクーター用としてだけではなく、小型2EVスポーツモデルや3〜4輪の小型EVなど、Gogoroネットワークの対象分野を拡大することも可能になるかもしれません。両社のコラボがどのように進展していくことになるのか・・・注目しましょう!
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)