今年もテーマは「ストップ中須賀」です
全日本ロードレース開幕戦・モビリティリゾートもてぎ戦が終わりました。開幕戦ということで、木曜からフリー走行がスタート、事前テストから雪が降ったり雨になったり、気温が上がるかと思ったら寒かったりと、なかなか天候が安定しなかったんですが、土曜に天気が回復。けれど日曜の午後にはまたパラパラと落ちてきて、日曜の午後にはウェット路面になっちゃいました。
結局、日曜のJSB1000レース2とST1000クラスは、ウェットコンディションでのレース。雨はそうひどくはなかったんですが、寒い開幕戦になっちゃいましたね。
メインクラスのJSB1000は、土曜に1レース、日曜にも1レースの2レース制。土曜はドライ、日曜はウェットレースとなりました。
今シーズンのJSB1000クラスは、引き続き「絶対王者」中須賀克行(ヤマハファクトリーレーシング)を誰が倒すか--がメインテーマ。昨年は中須賀に清成龍一が挑んだ形となりましたが、中須賀が全勝で10度目のチャンピオンを獲得。世界で戦った、経験豊富な清成を持ってしても、中須賀越えは果たせないのかぁ……、とそんなムードが漂っている全日本ロードレースJSBクラスなんです。
そして今シーズンは、その清成がAstemoホンダからTOHOレーシングに移籍。打倒ヤマハを狙うホンダ系のトップチームは、清成にかわって作本輝介がエース格となるAstemoホンダにハルクプロ、昨年ランキング2位を獲得した濱原颯道を擁する桜井ホンダ、そして清成が加入したTOHOレーシング、21年シーズンに何度もトップグループを走った亀井雄大が走る鈴鹿レーシングという面々。
しかし開幕前の事前テストで、ホンダ系トップチームと目されるハルクプロの名越哲平、そしてTOHOレーシングの清成が転倒して負傷。開幕戦を欠場してしまいました。
打倒ヤマハの新顔としては、3シーズンぶりに全日本ロードに復帰するヨシムラスズキ。昨年まで自らのチーム、TeamKAGAYAMAで走っていた加賀山就臣が全日本ロードからの引退を表明し、「ヨシムラスズキRIDE-WIN」としてヨシムラの全日本ロードの活動をチーム監督として運営していくこととなりました。RIDE-WINはチームカガヤマの母体である企業名ですね。
そのヨシムラから出場するのは渡辺一樹。渡辺は、21年こそヨシムラの世界耐久チームメンバーとして開発ライダーを務め、全日本へは出場せずだったんですが、昨年の開幕戦、ちょうどここもてぎ戦にスポット参戦し、事前テストもなしで2レースとも表彰台にあがり、関係者の間では「打倒・中須賀の有力メンバー」と目されていたのです。
さらに「打倒中須賀」のメンバーには、中須賀の新チームメイトである岡本裕生も加わりました。岡本はST600で2度チャンピオンを獲得し、21年はST1000に参戦。ランキングは5位でしたが、最終戦で優勝するなどトップライダーの資質は十分、ということでヤマハファクトリーチーム入りを果たしたのでした。
チームメイトから打倒中須賀、というとWSBK挑戦中の野左根航汰を思わせますが、野左根も中須賀のいちばん近くで中須賀からいろいろなものを吸収、中須賀越えを果たしたチームメイトでしたから、これがヤマハのトップライダー育成法なのかもしれませんね。
さて、そんな状況での開幕戦。清成と名越の欠場で、中須賀に挑むのはヨシムラ渡辺、鈴レー亀井、Astemo作本に、桜井ホンダの濱原か、そんなウィークインでした。
木曜からのフリー走行では、やはり中須賀が速く、走行全セッションでトップタイムをマーク。渡辺、岡本、亀井、濱原のうち、やはり渡辺が肉薄しているかな、という感じでした。
「マシンは基本、世界耐久を走っている車両と同じで、耐久仕様とかスプリント仕様って違いはありません。僕の全日本車のほうがいち早く新しパーツをトライしたり、そんな状態ですね。今年は加賀山さんのリードで実戦を走って、とにかくレースすることが楽しいです」と渡辺。公式予選でも、やはりポールシッターの中須賀の0秒1差で2番手につけ、3番手濱原以降は、その0秒7後方と、中須賀と渡辺のふたりが抜け出した感の予選となりました。
土曜は一転ウェットレースで!
そして土曜に行なわれた決勝レース1。ホールショットは2番グリッドスタートの渡辺。すぐに中須賀が背後につき、オープニングラップのうちに逆転。中須賀の背後には渡辺、濱原、亀井、作本と、ほぼ戦前の予想どおりのメンバー。
そして予想通りといえばレース展開も然りで、中須賀-渡辺-濱原のトップ3の間隔が徐々に開き始め、中須賀が危なげなくトップでゴール。2位渡辺に3秒4、そこから3位濱原まで8秒弱という圧勝でした。開幕戦といえば、まだ本調子ではなく、セッティングもライダーの調子も安定しない、なんてよく言われますが、中須賀に限ってはそんなことナシ。力の差を見せつける形での開幕戦Vとなりました。
一夜明けての日曜日レース2は、お昼にひと雨がきてのウェットコンディション。路面はしっかり濡れているんだけど、降りはそう強くならない、って感じの天候でした。JSBのレース直前に少し強く降り、スタート直前で赤旗提示からのスタートディレイ。ほぼ全車スリックタイヤからレインタイヤに履き替えての2周減算、21周でのレースとなりました。
「雨が降ったら勝てる!」そう言っていたのは濱原。濱原はロードレース参戦前にスーパーモタードに参戦していた変わりダネで、悪コンデションにはめっぽう強いイメージ。もちろん自信もあって、乱打戦になったら勝負できる、ってずっと思っているライダーです。
「今のレースってタイヤをうまく使うのが勝負のひとつ。僕は身長体重ともにJSBライダーのナンバー1ですから、タイヤに熱を入れるの、ほかのライダーより早いんです。だから路面温度が上がらなかったり、ハーフウェットなんて路面では勝負できるんですよ」(濱原)
その自信の表れか、濱原はスタート前のウォームアップでも飛び出し、どんどんプッシュしてタイヤに熱を入れに来ます。レースがスタートすると、ポールシッターの中須賀が飛び出しますが、すぐに渡辺、濱原にかわされ、チームメイトの岡本にもかわされて一時は4番手へ。中須賀が序盤とはいえ4番手を走るなんて、なかなか新し風景でした。
3周目には、ついにきたきた濱原がトップに浮上! そのまま2番手以下を引き離し、2番手には岡本が浮上、3番手に渡辺、そして中須賀。こうやって順位がくるくるかわるのも、ウェットレースの特徴です。
濱原、有言実行か!と思ったのもつかの間。後方から追い上げてた岡本が、濱原をとらえてトップに浮上します。逆に濱原はペースダウンしますが、これはタイヤ選択の差だったようです。
トップに立った岡本は、これがJSBで2回目のレースで、雨の走行は初めて。
「セッティングも何もわからないから、チームが用意してくれたバイクに乗っただけです。あてゃ自分ができることをできるだけやろうと」と岡本。しかし、その岡本の後方には、渡辺も濱原もかわした中須賀がひたひたと迫ってくるのです。
レースが13周を過ぎたころ、中須賀は岡本をパス! まさに「満を持して」という表現がぴったりの戦略で、岡本の背後につけて自分の走りとの差を見極め、速い区間と遅い区間を理解。タイヤのマネジメントをしつつ、のトップ浮上でした。中須賀とは、そういうライダーなんです。
中須賀に抜かれた岡本ですが、その後にずるずると引き離され、という局面もなく、ずっと中須賀にくらいついて、時には並びかけ、何度も抜きにかかるファイトを見せました。
結局、開幕戦ダブルウィンを決めた中須賀に、0秒5差で岡本が2位フィニッシュ! 3位の渡辺に30秒以上の差をつけての、ヤマハファクトリーチームの圧勝1-2フィニッシュとなりました。
終わってみれば中須賀のダブル。これで2021年の開幕戦から数えて、12連勝を達成。ただひとつ違うのは、今年は「打倒中須賀」に楽しみなメンバーが増えた、ってところでしょうか。
撮影・文責/中村浩史