文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2022年4月29日に公開されたものを一部編集し転載しています。
日本における、排ガス規制の流れのおさらい
そもそも日本で、空気をキレイに保ちましょう・・・という法律が生まれたのは1967年の「公害対策基本法」、そして「ばい煙の排出の規制等に関する法律の成立」(1962年)に代わり、「大気汚染防止法」が制定された1960年代のことでした。戦後復興期〜高度成長期の日本では、大気汚染などの環境悪化が著しいスピードで加速。いわゆる「公害問題」対策として、これらの法は生まれたわけです。
1950年代半ばには日本に「マイカー時代」が到来し、1968年には2輪車を含む保有自動車台数は1,000万台を突破しますが、言うまでもなくこれら自動車の排ガスも「大気汚染」の原因となります。そこで国は1966(昭和41)年9月からガソリン車(普通自動車・小型自動車)のCO(一酸化炭素)濃度規制を開始。さらに、1970年に改正されたアメリカの「大気浄化法改正案」を基準とした、より厳しい内容の(昭和)48年規制を1973年に施行しました。
その後日本の、自動車排ガス規制は(昭和)49年規制、50年規制、51年規制・・・と続くわけですが、50年規制でも未規制のころに比べCOで95%、HC(炭化水素)で92%、NOx(窒素化合物)で61%も削減されていたそうです! しかし、環境を守るためにより厳しい規制の更新は周知のとおり終わることはなく・・・。そしてついに平成10年規制(1998年施行)と平成11年規制(1999年施行)では、2輪車に対する規制が行われることになりました。
21世紀の2輪車の排ガス規制は結果的に、まずは2ストローク車、続いてキャブレター車を公道用マーケットから駆逐していくことになりました。規制に対応するため仕方のないことではありますけども、新車に関しては2輪車趣味の選択の「幅」が狭まったことに違いないのは、なんとも残念なことではあります・・・。
さようなら・・・"中型免許時代"からの名車、ホンダCB400SF
国内の2輪車の排ガス規制は現在、EU圏内共通排気ガス規制である2輪EUROに歩調を合わせるようになっている・・・といえます。4輪EUROに遅れること7年、1999年にまず最初の「EURO1」からスタートした2輪EUROは、近年では「世界標準」に最も近い規制となっており、インドや中国などの2輪生産超大国も2輪EUROの排出制限に基づいた規制をしております。
日本で施行されている最新の規制は「令和2年排出ガス規制」というもので、2019(令和元)年10月3日に交付・施行されました。2020年からの2輪EURO5と同等の令和2年規制は、新型車には2020年12月から、継続生産車には今年の11月から(原付一種のみ2025年11月より)適用されるのですが、この度ホンダが生産終了を発表したモデルたちはいずれも、継続生産車の期限(今年11月)に合わせて退場・・・となるわけです。
【生産終了機種(2022年10月生産まで)】
・Gold Wing(リアトランクレスタイプ)※Gold Wing Tourは含まれません。
・VFR800F
・VFR800X
・CB400 SUPER FOUR/SUPER BOL D’OR
・ベンリィ110
この発表で最も多くの人が注目しているのは、1990年代からのロングセラーであるCB400SFことCB400 SUPER FOURがサヨウナラ・・・となることでしょう。1996年に中免=中型限定という枠がなくなる代わりに普通自動2輪免許が生まれることになりますが、まだ中免時代だった1992年4月23日に初代CB400SFは発売。教習所で中免または普通自動2輪免許を所得した人の中には、CB400SFの教習車が初めて乗った自動2輪車という方も少なくないのではないでしょうか?
水冷4ストローク4気筒DOHC4バルブエンジンを搭載するCB400SFは、趣味のスポーツバイクとして、教習車として、そして街のバイク便の相方などなど、さまざまなシーンで多くの人に愛されたモデルです。約30年間、ホンダの400ccクラスのラインアップに載り続けてきたCB400SFの退場を残念がる人は少なくないでしょう。
2輪EURO6の時代に、ICE搭載2輪車はどうなっているのか?
現在の2輪EURO5、そして令和2年規制の「次」はいつになるのか? については未だ明らかになっていません。4輪車については、策定作業中の4輪EURO7の適用が2026〜2027年ころに始まるのでは・・・と言われていますが、英国のグローバルエンジニアリング・コンサルティング企業「リカルド」の予想は、次の規制・・・2輪EURO6の適用は4輪のEURO7適用後、そして2030年より前・・・と、彼らの制作した資料「2輪車排ガス規制の今後の課題」には記されています。
2輪EURO5は4輪EURO6に準じており、NOxは60、THC(総炭化水素)は100、NMHC(非メタン炭化水素)は68、COは1,000、PM(粒子状物質)は4.5と、ガソリン乗用車EURO6(WHTC)とLカテゴリー2輪EURO5(WMTC)で違いはありません(※単位はいずれもmg/km)。
しかし、2輪EURO5には4輪EURO6のPN規制(パーティキュレート・ナンバー、PM粒子数の規制)がないのですが、2輪EURO6ではこれが採用される可能性は高いでしょう。また2輪EURO6では、2輪EURO5や令和2年規制で使用されている排出ガス測定方法のWMTC(The World-wide Motorcycle Test Cycle)のほか、加速時により数字がシビアになるRDE(Real Driving Emissions)試験も導入されるかもしれません。遅れて4輪EUROの規制強化スケジュールに従う・・・のがこれまでの2輪EUROのあゆみですので、この予想は妥当ではないかと思います。
規制強化対策の鍵を握るのは、NOxとPNの対策か?
リカルドは将来の規制強化・・・2輪EURO6を想定して、すでに規制対象になっている有害物質および未だ規制対象になっていない有害物質の、WMTCとRDE試験を行なっています。その結果で興味深いのは、NOx以外はWMTCでもRDEでもほぼ同じような数値だったことです。
また、先述のとおり2輪EUROにも導入が予想されるPN規制について、リカルドは粒子径10nmで規制が導入されると予想しています。現在、4輪EURO6はDI(ガソリン直噴)エンジンで粒子径23nm以上での規制ですが、2輪EURO5適合車のRDEでのPNは4輪EURO・DIエンジン車の規制値を下回っています。しかし、10nm以上のPNは4輪用EURO6の粒子径23nm以上に関する規制値よりも高いので、このあたりも懸案材料になりそうです。
なお4輪用EURO7で導入される見込みのNH3(アンモニア)規制ですが、リカルドの試験によるとRDEで2輪車のNH3排出量は0.5g以下と比較的抑制されていることが判明されています(加速が激しいときに、NH3排出量は最も増加します)。
まだ2輪用EURO6がどのような規制内容になるかは定かではありませんが、リカルドの研究を参考に考えると、将来の規制強化に対する主な課題は「NOxとPNの制御」になるでしょう。NOxの問題は触媒量の増加とラムダ制御(理論空燃比・・・λ=1を維持する)の強化で克服することができます。一方PNは、排気フィルターによる制御で規制値クリアの達成を目指すことになります。
2輪EURO6時代には、排気系設計改良などでますます開発費・製造費がかかることになって、規制強化前よりも2輪車の価格が高くなることが心配されますが・・・それでもICE搭載の新車が2輪EURO6施行以降も販売されるのであれば、それは有難いことに違いないです!
今後10年の近未来を予測すると、都市部で使われることが多く、走行距離も大型車よりは短くて、通勤・通学やルート配送など決まったコースを定期的に走る利用法が多い小型車やスクーターは、「電動化」の道を進んでいくことになるのでしょう。先進国市場に関しては、規制強化対策によるコストアップを販売価格に転嫁しにくい小型車・スクーターは、電動化した方がユーザーの利益になると判断するメーカーが多いとのではないか・・・と予想されます。
一方、全固体電池の実用化など、大幅な電池技術のブレイクスルーがない限り、趣味の大型・中型モーターサイクルはICE搭載をやめることはないでしょう。ただ、規制強化対策によるコストアップを転嫁してもユーザーに受け入れられるモデルしか造ることができない状況にはなりますので、今現在よりも製品ラインアップは絞られていくことになるのではないでしょうか?
利にさとい方は、今年10月に生産終了するCB400SFは将来プレミアバイクになる・・・と色めきたっていますが(苦笑)、ICEのバイクで欲しい機種がある方は規制が強化されてから買えなくなることを嘆くことがないように、「いつ買うか? 今でしょ! 」(←古っ!)の心構えを大事にした方が良いのかもしれませんね・・・?
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)