2022春のテイスト・オブ・ツクバSATSUKI-STAGE。最高峰ハーキュリーズクラスの表彰台常連として知られる、新庄雅浩選手と彼が駆るオートボーイJ’sのZRX1200Sレーサーにはリンク式ツインショックが装着されていた。聞けばハイパープロ・サスペンション輸入元のアクティブが、タイムアップを目指す新庄選手のリクエストに応えようと新作したものという。その経緯、そして効果と将来を両社に聞いた。
※本企画はHeritage&Legends 2022年8月号に掲載された記事を再編集したものです。

ツインショックで高みを目指す新兵器を目撃!

国内最大のサンデーレースイベントとして知られるテイスト・オブ・ツクバ(TOT)。2007年から続くそのTOTを長く観てきたファンなら、最高峰ハーキュリーズクラス表彰台の常連でもある、新庄雅浩選手と彼が駆るオートボーイJ’s・ZRX1200Sの存在をご存じだろう。

その新庄ZRXは去る2022年5月に開かれたSATSUKI-STAGEに、新たにリンク式ツインショックを装着して登場した。

決勝レースでは、製作者のオートボーイJ’s・鴻巣 正代表が「170psぐらいは出ているんじゃないかな」という同車で、光元選手の駆る300ps超のH2Rや、オリジナルフレームにHAYABUSAエンジンを積み話題をさらった加賀山選手の鐵隼らライバルを相手に、一時はトップを張るなどの大活躍。クラッチトラブルもあってリザルトは4位に沈んだけれど、そのリンク式ツインショックは表彰台の頂点を奪回(’16年秋〜’17年秋の間、新庄選手は3大会連続優勝を果たした)するために用意された新兵器ではないか?

装着されたオランダ・ハイパープロ製リヤショックの輸入発売元・アクティブの担当・宇田知憲さんに聞けば、「弊社の持つ技術力を知ってほしくて、製作したものなんです」と。俄然、興味をそそられて、レース後に改めて話を伺う機会を得た。場所は茨城県つくばみらい市のオートボーイJ’s。ライダー・新庄選手を含め、開発に関わる3人に早速、その経緯や目指す効果など聞いていこう。

画像: ▲お話を伺ったオートボーイJ'sの鴻巣 正代表(左)と、ライダーの新庄雅浩選手(中)、アクティブ・ハイパープロ担当の宇田知憲さん(右)。

▲お話を伺ったオートボーイJ'sの鴻巣 正代表(左)と、ライダーの新庄雅浩選手(中)、アクティブ・ハイパープロ担当の宇田知憲さん(右)。

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初期作動と高荷重対応をリンク式サスで解決する

「オートボーイJ’sとアクティブとの付き合いは古くて、松下ヨシナリ選手(故人。’13年のマン島TTレースで還らぬ人となった)がオートボーイのライダーとしてTOTで活躍した頃に遡ります。最初はゲイルスピードのホイールを使っていただくところから。僕が関わりだしたのは、アクティブ・オリジナルのプレスフォーミングスイングアームを発売した’17年ごろかな」と、切り出してくれたのはアクティブの宇田さん。

提供されたのは市販品そのままだった。その印象を新庄選手は、

「僕はライダーとして各パーツを、タイムアップが図れるかの一点で評価します。ダメなものは使いたくない。でも、プレスフォーミングスイングアームはウチのZRXと剛性やたわみのバランスがマッチして、タイヤが路面を捉える時間が延びたのを実感できました」と。

信頼関係を築いたオートボーイJ’sとアクティブは以降、ZRXレーサーへのハイパープロ製リヤショックの導入と並行して、その煮詰めを進めていく。

「ハイパープロのツインショックにDP-S(ダブルピストンシステム)を加えられたのは、新庄選手のおかげ」と宇田さん。今や日本でしか需要のないスポーツバイク向けツインショックだが、宇田さんの熱意とオートボーイJ’sの膨大なデータがオランダ・ハイパープロ社を動かし、同社ツインショックの最高峰、DP-S仕様として結実したという。

画像: ▲コンピュータ解析に使うリンク式ツインショックの3Dデータ。

▲コンピュータ解析に使うリンク式ツインショックの3Dデータ。

そして、今回の話題となるリンク式ツインショックに話が進む。

「きっかけは新庄選手のリクエスト。高荷重に耐えるようにリヤのスプリングレートを上げたいというが、リンクを介せばプリロードを抜き初期作動を確保しながら、アクスル荷重を増やせるのではないか。普通に考えればフレームに直付けするロッド部を、スイングアーム内に通したのは、大がかりな作業を施さず完結できるから。パソコン解析で、剛性や捻れを考慮して開口部の位置、大きさなど決定しました。リンク部も机上計算から複数を作り、ベストと思われるものを選択しました」(宇田さん)

モノショック化も考えられたのでは? という問いに鴻巣代表は、

「ウチのTOTの原点は最初に出ていたF-ZEROなんです。極力、ZRXはZRXとしてウチを頼りにしてくださるユーザーの皆さんへのフィードバックを大事にしたい。そのためにも、ツインショックで行きたいですね」と。

とはいえ、リンク式サスペンションでの挑戦は始まったばかり。現状での走行中の適正ディメンションも探り切れていないし、リンク比やサス長を始めとした各部セッティングもこれから。一方で、その状態で冒頭の4位入賞を得たのは伸びしろがある証明だろう。

バイクショップとしてユーザーに提供できるデータを蓄積したいオートボーイJ’s、フットワークパーツをトータルプロデュースできる力量を市場認知につなげたいアクティブ。両社の熱意は、過去のシステムになりつつあるツインショックの可能性を、今一度、引き上げてくれるはずだ。

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TOTで最初の一歩を刻んだ、リンク式ツインショック仕様!

画像1: TOTで最初の一歩を刻んだ、リンク式ツインショック仕様!
画像2: TOTで最初の一歩を刻んだ、リンク式ツインショック仕様!
画像3: TOTで最初の一歩を刻んだ、リンク式ツインショック仕様!
画像4: TOTで最初の一歩を刻んだ、リンク式ツインショック仕様!
画像5: TOTで最初の一歩を刻んだ、リンク式ツインショック仕様!
画像6: TOTで最初の一歩を刻んだ、リンク式ツインショック仕様!
画像7: TOTで最初の一歩を刻んだ、リンク式ツインショック仕様!

リンク式ツインショックの詳細を見る。スイングアーム内に差し込まれるロッドのエンド部は、ピロボールを介してスイングアーム側に設けたボスに固定される。スイングアーム開口部はコンピュータ解析の下で決定。削り出しパーツまで、すべてアクティブ製。リンク式ツインショックは開発途上で、まだ市販化予定はないという。

画像8: TOTで最初の一歩を刻んだ、リンク式ツインショック仕様!

エントリー車名はZRX1200Sだが、シリンダーはDAEGベースでJE製φ81mmピストンにより1224cc化。シリンダーはベビーフェイスで再めっき。コンロッドはキャリロ、カムはヨシムラST-1、オリジナル・スリッパークラッチキット装備など各所に手が入る。

画像9: TOTで最初の一歩を刻んだ、リンク式ツインショック仕様!
画像10: TOTで最初の一歩を刻んだ、リンク式ツインショック仕様!

吸排気はFCR41mm+ストライカー・レーシングコンセプトの組み合わせだ。

画像11: TOTで最初の一歩を刻んだ、リンク式ツインショック仕様!

ステムまわりは’04YZF-R1から流用する。ハンドルはベビーフェイス製。

画像12: TOTで最初の一歩を刻んだ、リンク式ツインショック仕様!

ハイパープロのステアリングダンパーはステアリングステム前に装着されている。

画像13: TOTで最初の一歩を刻んだ、リンク式ツインショック仕様!

大型化されたラジエーターはCBR1000RRからの流用という。フレームには6箇所の補強が施される。前後ホイールはもちろんアクティブ・オリジナルのゲイルスピード・タイプSB1でサイズはF:3.50-17/R:6.00-17。

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折々の新作パーツをまといながら進化するDAEG

画像1: 折々の新作パーツをまといながら進化するDAEG
画像2: 折々の新作パーツをまといながら進化するDAEG

こちらは前後のハイパープロサスペンション装着やオリジナルブランドのゲイルスピードを筆頭に、自社取り扱いパーツがふんだんに奢られた、アクティブによるZRX1200DAEGデモ車の最新仕様。長くジャパニーズ・スタンダードの位置を占めた同車は未だファンも多く、アクティブDAEGもスポーティをテーマに、そんなライダーに応えながら今も進化を続けているのだ。

協力:オートボーイJ’s、アクティブ

レポート:ヘリテイジ&レジェンズ編集部

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