文:濱矢文夫、アドベンチャーズ編集部/写真:柴田直行
スズキ「Vストローム1050DE」インプレ(濱矢文夫)
ロングトリップから、林道巡りも難なくこなす
ワイヤースポークホイールを履いたスズキのフラッグシップVストロームというと、以前はVストローム1050XTだった。新たに登場したこのVストローム1050DEでは、フロントのホイールがXTの19インチ外径から21インチ外径になったのが注目ポイント。前モデルのタイヤサイズは110/80R19。これからわかるとおりラジアルタイヤだったが、DEでは90/90-21M/C 54Hとバイアスのチューブが入るタイプを履く。リアは150/70R17サイズのラジアルのまま。
普通に考えて、よりオフロードでの走破性を上げることが目的だ。裏付けるように最低地上高が160mmから190mmと30mmも増やされている。障害物や深いワダチがあっても腹下をぶつけにくくなった。それと同時にシートも30mm高くなっている。そこをどうとらえるかは体格や運転スキル、経験値によって違ってくるところ。だが、アドベンチャーツアラーカテゴリーにおいて、どんなバイクよりどんな状況の道でも走り抜けられることがファーストプライオリティーで魅力だから、これを〝進化〟と言っても過言ではない。
ため息が出るくらいまとわりつく暑さに包囲された都心を離れて、高速道路を300km走った先にある北の高原を目指した。高速走行はすこぶる快適だーーで終わると説明責任を放棄していると思われるから具体的に書いていく。伝統とも言えるアルミダイキャストフレームによる乗り味は、これまでも剛性の高いシャシーにしなやかに動く足といった印象だったが、舗装路の継ぎ目を通過したり、アンジュレーションをやりすごす際のモーションが穏やかで、かつあたりが柔らかくなった。それでいてその影響をものともしないスタビリティがあるから、体を不快に大きくゆすられることなく力を抜いたクルージングを続けられる。
水冷DOHC90度Vツインエンジンは106PS、99Nmの十分な最高出力と最大トルクを発揮しているが、急にトルクが変化することなく、低回転域からなだらかに力を増しながら高回転域までつながっていく。ギアを6速に入れておけば、高速道路ならそれだけで問題なし。追い越しを素早く終えたいなら1速落とす。尖っておらず全体に角がないフィール。長い移動時間がイヤになりにくいグランドツアラーとしての本領を発揮する。
クルーズコントロールは前のクルマに近づき減速し解除されても、さっきまでセットしていた速度へと簡単に復帰できるレジューム機能もあり使いやすい。あくせくとむやみに先を急いでストレスを増やすより、鼻歌交じりでリラックスした移動を楽しむことが正解。そんなことから、目標にしたインターチェンジ到着までかかった時間が短く感じられた。
決して軽いとは言えない車両重量だけれど、高速道路を後にした街中でも、なかなかキビキビとした走りをする。Φ310mmローター2枚にトキコ製4ピストンキャリパーをラジアルマウントしたフロントブレーキは、よく利いて思い通りに減速可能なので大きな車体とは思えないほどの節度がある。そこから標高を上げていきながらワインディングをこなす。
大径化されて細くなったフロントタイをペタンと軽く寝かせてリーンしながら曲げるハンドリング。奥まで突っ込んで減速Gと折り合いをつけながら方向転換するより、早めのブレーキングで速度を調整してから飛び込んだ方が楽だし気持ちいい。安定を失うことなく簡単にバイクをコントロールし右に左に曲がっていける。切り返しもスムーズ。21インチをネガティブに思わせない従順さとまとまりがある。
ちょっとしたダートに入ると最初は手に負えないと思ったことを正直に話そう。トラクションコントロールの設定に新たに加わったグラベルモードを選んでおけば、滑りやすいシーンでも前に進ませやすくなる。機械としての設定だけでなく電子制御の発展によって、意識しなくても以前より走破性が上がっている。あなたにダート走行の素養があり、もっとやんちゃ走りをしたければ、ABSとトラクションコントロールをオフにして振り回して乗るとおもしろいだろう。
Vストローム1050DEは、いつでも、どこでも、どこまででも走る、というアドベンチャーの理想に近づいた意欲的なモデル。これまでより進化したと感じさせる場面がいくつもあった。進化は走行性能だけでなくライダーの心持ちも上げてくれる。平均的な日本人にとって車体のボリュームはまず確実に気になるだろう。それでも、それをものともしない世界へ誘う。これは正統なバージョンアップなのである。
スズキ「Vストローム1050DE」カラーバリエーション
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