※本企画はHeritage&Legends 2023年4月号に掲載された記事を再編集したものです。
ニンジャヘッドのままでのスープアップが可能になった
GPZ900R、とくにエンジンに関してはZZR1100やZRXシリーズなどの後継/系列機パーツを活用。使用パーツも吟味し、エッジ取りや鏡面加工、重量バランスに駄肉の削ぎ落としなど多くの加工を行ってきた。最近ではR-Shot#Mというオリジナルの表面処理も作業メニューに加えたトレーディングガレージナカガワ(以下TGナカガワ)。
エンジン本体のスープアップだけでなく、オイルパンバイパスやカムまわりへの安定して多くのオイル供給を行うDOS(ダイレクトオイルシステム)-R、GPZ-Rに合わせた点火カーブを持つ点火ユニットのHIR(ハイパーイグニッションリーダー)、強力な点火を安定して生むDIS(ダイレクトイグニッションシステム)と補機類も揃えてきた。
このようにして出力を高めながら同店・中川さんが“セキュリティ”と呼ぶ多面的な耐久性の確保も両立させつつ、もう20年以上にわたってGPZ-Rエンジンの可能性を追い求めてきた。
そのGPZ-Rエンジンチューニング、ひと頃とは傾向が変わったと同店・中川さんは言う。
「まずはニンジャヘッドが増えています。カスタムに長く触れている方はお分かりでしょうが、ニンジャでのパワーアップでは、ZRXシリーズのヘッドを使う、あるいはエンジンそのものを載せ替えるという手法がすぐ思い浮かびます。私たちも多くの車両でやってきました。ボアや排気量だけでなく、系列でいて新しいから対策パーツのように使える部分も多い。
それが今、ニンジャオリジナル。ひとつには、純正フルカウルで乗られる車両が増えたことがあるでしょう。ZRX系を使うならダウンチューブが要る、カウルは外すことになりますが、純正ヘッドなら元の形のままでできる。
もうひとつは、ニンジャヘッドのままでかなりのスペックアップができるようになったこと。これが大きいですね。パーツや加工に精度、処理の進化と言っていいでしょう。ヨシムラも削り出しでDLCコーティングも施したST-1Mカムをリリースしましたし、手前味噌ですけど当社のR-Shot#Mもそんなひとつです。より効率的にパーツの強度を高めたり、耐久性を伸ばしたりできるようになって、トータル性能も上がった。
それも含めて“ニンジャで行きたい”と思う方が増えたんでしょうね。昔はなかった、難しかったハイパーニンジャを実現する可能性が見えた。純正フルカウルの中に純正ヘッド、しかもしっかりパワーも出ていて耐久性≒安心感もある。“今だからこそニンジャを大事にしたい”という方も増えて、オーダーをくださると思います」
本来のフルカウル仕様で楽しむ層が増えているというのはここしばらく明確化していたが、それがエンジンにも及んでいた。特徴的な左カムチェーン、同じくスリムなシリンダーブロックの上に載った幅広のシリンダーヘッド。その形を大事にしたい。そして、長く乗りたい。その上にパフォーマンスが加わればもっといい。
しかも新しいパーツや手法は高いレベルを短時間に多くのユーザーに提供できる。中川さんはR-Shot#Mで、コンロッドやピストンへの鏡面加工で得られた強度向上を1個1個の手作業でなく一度に均質にできることなどを以前教えてくれたが、それで作業時間を他に振り向けられるのもメリットになっている。
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長期保管の個体も確認しリフレッシュを施す
そうした変化もありつつ、TGナカガワには多くのGPZ900Rエンジンが入庫してくる。距離を走ったエンジンのオーバーホールメニューにチューニングメニューと、オーダーはさまざま。今回はまれと言えるケースの個体が入庫していて、オーナーの厚意でそのままの現状を見せてもらえた。
「ご依頼は当店のエンジンフルメニューです。フルオーバーホールしてステージメニューを加えます。外観も合わせて当店のリメイクを行います。納屋のようなところで10年前後そのままにされていたようです。ベースは中期型のA8フルパワー仕様で、これは打刻とも合います。およそ6000㎞走行ということでした。そのままから開けてみるというのもなかなか見られないですから、参考になるはずです。おそらく中身は大丈夫だと思いますよ」と中川さん。
そのエンジン、外観はニンジャのそれを維持しているが、シリンダーヘッドカバーや左右のクランクケースカバーなどのアルミ部分はかなり腐食が進んでいる。表面というより、えぐれた感じだ。鉄製ウォーターパイプは外皮のように錆びが付いた状態。ただ、それ以上に悪いと思う部分はない。
ヘッドガスケットやボルトの状態は分からないので壊さないように慎重に作業を進める。ヘッドカバーはすんなり開いた。ここは同店の多くのエンジン組みバラしの経験も生きている。出てきたカムまわりは、思いのほかきれい。
「6000㎞走行というのがなるほどと思える状態です。カム山も比較的きれいで、ダメージの出がちな吸気側も大丈夫。カムホルダーに茶色い焼けもないし、ロッカーシャフトも曲がってません。ロッカーアームのスリッパー面は隅の方に剥がれがあるものもありました。使うエンジンオイルにもよりますが、カムがOKでもロッカーがだめなこともあります」
カム/カムチェーンに続いてヘッドを外す。燃焼室はカーボンの付着も少なく、ここも問題ない。シリンダー/ピストンはどうか。
「一番左の#1気筒のピストン中央部に薄く錆びがありますが、大きな問題ではないです。ニンジャでありがちな#1のプラグホールからの水分浸入でしょうけど、量は少ない。錆びがシリンダーライナーに出ていたら打ち替えになりますが、これは大丈夫です」
シリンダーはゴミこそ入っていたがピストンともに問題なし。ゆっくりクランキングしてもピストンの動きは普通だから、コンロッドまわりも問題ないと思われる。
「右サイドのクラッチ奥にある十字型のクラッチダンパーもオイル焼けはしてますけどきれいでした。これが経年でだめというか崩れてしまうこともあって、そのゴミが回ってしまうと全バラ。オイルストレーナーのところに黒いゴミが出ますから分かりますけど。内容としては大丈夫で、総じて走行距離なりの傷みでした。むしろ外観が大変かもしれません」
このエンジンはさらに全バラされ、依頼されたメニューをこなしていく。そのTGナカガワエンジンメニューに合わせて外観もリフレッシュ。もちろんウォーターパイプやオルタネーター、オイルクーラーも一新される。仕上がった際には改めて比べてみたくなる。
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安心できるからさらに距離が伸ばせる好循環
期待の高まるエンジンメニュー。これも多くの仕様が選べる。55mmストロークのGPZ900Rクランクを使う中ではまず純正シリンダーブロックを使うTGナカガワ・ステージ1メニューの920cc(φ73mmピストン)、同ステージ2メニューとなる972cc(φ75mm)。ステージ1はノーマル908cc(φ72.5mm)からのオーバーホール+1サイズオーバーと考えていいし、ステージ2はGPZ900Rで長く使われてきた排気量だ。
もう少し大きい排気量で好バランスを狙いたい向きには1050cc(φ78mmワイセコ鍛造ピストンを重量合わせ/スカート部追加工〔オプション〕)のステージ3。その発展型の1078cc(φ79mmコスワースピストン加工)/ステージ4は、ニンジャクランクでのベストスペックと言える回り方や出力特性を得た。
ZX-11の58mmストローク(1108、1137cc)やZRX1200の59.4mmストロークによる1224ccという仕様もありながら、バランスや特性での55mmストローク。滑らかなパワーの出方もお勧めだと中川さんは言う。
「1050や1078はピストンにはR-Shot#Mを施します。その他のパート、またステージメニューも依頼時にR-Shot#Mが追加できます。何度かお話してますが、元々は廃番化する純正部品をできるだけ長く、大切に使えればという目的で手がけた表面処理だったんですね。それで処理対象の表面強度が上がる、摺動抵抗が減らせる、寸法が維持される。
いくつかのギヤが出ないミッションにも、ピストンにも。クランクメタルにもバルブにもカムホルダーにも施せて効果が大きい。オイルポンプやロッカーアーム、ロッカーシャフトにピストンピンとほとんどの部分に施せる。ですから冒頭のようにニンジャヘッドも有効に使えるようになりました。フリクションロスが減ることでセットアップにも幅が出るようになり、ピークパワーがポイントでなくバンドで出せるメリットもある。依頼も増えているんです」
R-Shot#MもTGNエンジンメニューもという個体も増えた。もちろん、どちらかを受けるのも有効だ。紹介する下の2台はその好例で、どちらもニンジャヘッドによるエンジンメニューを受けている。先の車両はお勧め1078ccにフルR-Shot#Mの例。後の車両は972cc仕様コンプリートを何年か乗った上で、仕上げとしてフレーム補強を行うべく入庫してきた。こうした再入庫車両も多いのだと中川さんは続けてくれる。
「仕様変更、R-Shot#M追加というオーダーも多くいただきます。その中で分かるのは、ニンジャはやっぱりよく乗る人が多いということ。当店でチューニングを受けて4万㎞、5万㎞と走って再オーバーホール。同じTGNメニューを維持してくれる“お代わり”の方が多いのも嬉しいですね。
最近ではウォーターポンプも廃番になって、純正部品はかなり減ってきています。ただニンジャではまだピストンリングや各部シール類、ガスケットなど、エンジンオーバーホール時に使う純正部品が出ます。ですからまだ出るうちに一度は手を入れてくださいという気持ちは変わりません」
スムーズ化と良好なパワー特性。スープアップエンジンにかつてはありがちだった壊れることへの不安も大きく取り除かれる。それならば安心してもっと走るし、その先にもオーバーホールでのリフレッシュがある。その結果も今乗って既に分かっているから、また長く乗れる。そんな好循環を楽しんでいける。ニンジャオーナーには、その可能性が大きく残されているのだ。
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R-Shot#M/内部パーツ表面を高精度で均質&平滑化し硬度も潤滑性も高める
TGナカガワのコンプリートエンジン製作の軸となるピストンとシリンダーの例。写真は最新&注目仕様の1078㏄(ノーマルから170㏄増)仕様でスリーブは打ち替え、ピストンはφ79㎜のコスワース鍛造品をTGナカガワでバランス取り等を行った上でトップ/サイドにR-Shot#M処理を施している。純正55㎜ストローククランクに対して同店トップスペックかつ滑らかなパワー特性を持つという。スリーブを打ち替えない908㏄や972㏄、ほか1050㏄等も選択可能だ。
R-Shot#M処理を受けたパーツ例(上2点はZRX用)。上のロッカーシャフトはロッカーアームがスイングする軸となるためここでの摺動抵抗減は作動のスムーズ化、有効パワー引き出しにつながる。中写真のカムホルダー、ピストンピン、オイルポンプも同じ。下写真はミッションだが、使用可能な中古品なら以後の劣化速度が大幅に抑えられる上に回転や入りが良くなるのがR-Shot#M処理の利点だ。
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エンジン内部同様にエンジン外観も一気にレストアするメニュー
「外観リメイク」はTGナカガワでエンジンコンプリート作業を依頼した際に、合わせて外観もレストアするメニュー。写真はGPZ900Rの例で、エンジンパーツ全分解&マスキング処理後にサンドブラスト処理し、砂抜き完全洗浄処理を行ってマスキングした後に塗装、最終確認後に組み立てて完成する。エンジン内部作業とセットにすれば所有感もより高まる。外観のみ仕上げを希望する場合も対応可能だ。
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単品でも使えるGPZ900R用対策パーツも豊富
ニンジャでオイル供給不足が起こりがちな#3/#4気筒間のクランク軸にオイルを増量するオイルパンバイパス。
現行車のように点火部と点火コイルを一体化し点火を強化、燃料タンク下の純正コイルを省けるDIS(ダイレクトイグニッションシステム)。
DIS使用時にも使える点火ユニットHIR(ハイパーイグニッションリーダー)。ノーマル車でも4000〜6000rpmのトルク谷解消ができる。