文:ノア セレン/写真:南 孝幸、関野 温
ヤマハ「MT-10 ABS」VS スズキ「GSX-S1000」|比較インプレ
似てるようで正反対でもどっちも正義だ!
ギンギンのアルミフレームにSS由来の150PSオーバーエンジンを搭載。電子制御も盛りだくさん。いずれのモデルも乗ったことがあるのに「バッヂが違うだけで、公道で乗る分にはあんまり変わらないんじゃないの? 」なんてチョットダケ思っていた。
ちなみに最近、タイヤテストで2台とも筑波サーキットで乗ったばかりだが、サーキット用のセッティングなどはせずタイムとかは別にしてパッと乗っただけでは、GSX-S1000の方がアクティブでダイレクトでエキサイティングだった。さて公道ではどうなのか?
やはりGSX-Sはアクティブでダイレクトでエキサイティング! 一般道を走るだけでも無駄にアクセルを開けたくなるし、高速道路でも足まわりがハード目で路面の継ぎ目などをダイレクトに感じるためライダーは常に臨戦態勢といった感じ。全体的に重心が低いので、路面にしっかりと張り付いている感覚があり、「これぞストファイだぜ! 」と感じさせるじゃじゃ馬的味付けは強いのに、そこに危なっかしさはなく、安心してハイペースや積極的な走りが楽しめる。ゆえにアドレナリンがジャバジャバ出てきて、積極的になってしまった。
対するMT-10はとても上品だ。ハンドルはより高くて幅は狭い。いかり肩にならない安楽ポジションで見晴らしも良い。サスはとてもしなやかでサスストロークも大きいような印象。ピッチングがより感じられ、それも激しいイメージのあるストファイには感じさせない要素に思えた。
エンジンも静かでなめらか、排気音もおとなしくとても166PSもあるようには感じない。まるでハイギアードなイメージだが、トップギアでの高速巡行時の回転数はGSX-Sと同等だったため、そういうわけではないのだろう。
ただ優しい味付けであり、ストファイと言うよりもどこかかつてのビッグネイキッドの延長線上にあるようにも感じた。あっ! それって先月号のMT-03で感じたことと同じだ! ハイパフォーマンスと優しさと付き合いやすさの融合、これが今のヤマハ流の味付けなのだろう。
【ルーツの伝承】
「クロスプレーン」になって2世代目のR1
2009年からYZF-R1はモトGPマシンと同様の「クロスプレーン」型エンジンを採用。2015年に登場したYZF-R1もクロスプレーンを採用し、最高出力は200PSに到達した。チタンコンロッドやアルミタンク、マグホイールといった機能面だけでなく、ルックス的にも大きく変わってミニマムな灯火類によってまるでレーサーのようになった。馬力は上がったはずなのに、上質な乗り味のおかげか、クロスプレーンの特徴か、公道で乗っている分にはあまり速さを感じさせないのが不思議だった。MT-10はまさにこの上質さを受け継いでいる。
ワインディングでも同様。GSX-Sは常に「おりゃあっ! 」と振り回し、ライダーとバイクとの濃密なコネクションを満喫するのに対し、MT-10は余裕を持って「スイッ」と走る感じ。それでいてペースは変わらないのだから面白い。上品だからと言って決して遅いというわけではなく、むしろ「能ある鷹は爪を隠す」的に、底知れぬ実力を必要な分だけ提供してくれるようなイメージだ。
短距離で充実感やバイクとの一体感を目いっぱい楽しみたいのなら電子制御の設定などもシンプルで付き合いやすいGSX-S。気兼ねなくロングツーリングにも出かけられる優しさを備えていて、それでいてソノ気になればスゴイというのがMTといったイメージだ。
ストリートファイターと言えば激しい味付けこそが魅力、というイメージもあったが、GSX-Sでは「やっぱコレっすよね! 」と思えたし、逆にMT-10は「こういうストファイがあってもイイナ」とも思えた。同じストファイでも方向性はかなり異なる。公道レベルの速度域でも確かな違いがあるのだ。
「ストリートファイターって、いったい何と戦うんだよ」と突っ込んでいたが、確かに交通社会は共生が大切だ。無駄に戦ってはイケナイよ。こういった超高性能バイクを日常的に付き合いやすくまとめてくれているストファイは、アクティブなライダーを楽しませてくれる魅力的なカテゴリーだけど、自制心をもって楽しみたいね。ピース!