文:横田和彦/写真:南 孝幸、関野 温
ヤマハ「MT-10 ABS」VS スズキ「GSX-S1000」|比較インプレ
ワイルドなGSX-S1000、しなやかに駆けるMT-10
スーパースポーツ由来のエンジンやフレームをもつ国産ストリートファイター対決となった今回のジャッジメント。まずは外観からチェックしてみよう。直線基調で思い切りがいい前下がりのシルエットを持つGSX-S1000は、ストリートファイターの定石通りともいえるスタイル。小さいウイングも備え、空気の壁を切り裂くかのようなアグレッシブなイメージだ。
対してMT-10(以下MT)はなめらかなラウンドフォルム。MTシリーズに共通のロボット顔を踏襲しつつ、タンクサイドの戦闘機みたいな吸気ダクト周辺は空気がスムーズに流れるようなラインで構成されている。
またがるとシート高はGSX-Sのほうが低い印象。そして、ハンドルの位置関係もあってMTのほうが大柄なバイクに乗っているイメージになる。エンジンはどちらも直列4気筒だが排気音はぜんぜん違う。なぜならMTは一般的な4気筒エンジンとは爆発間隔が異なるクロスプレーン型クランクシャフトを採用しているからだ。
低回転域ではバラララッと荒々しさを感じさせる音で、GSX-Sの連続したクリアな直4サウンドとは対照的だ。ところが走り始めるとガラッと印象が変わる。MTはバラつく音なのに、アクセル操作に対するトルクの出方が実になめらかなのだ。「なんだこのギャップ! 」。流石、かのバレンティーノ・ロッシが「スイート」と評しただけのことはある。ホントにスイートだよ、ドクター‼
GSX-Sに乗り換えるとまた違う感覚に襲われる。アクセルをワイドに開けた瞬間、ドンッ!と蹴り出されるようなパワー感。思わず「おおっ!」と声が出そうになる。このダイレクト感がたまらない。これなら負けないぜっ!(何に? )って雰囲気だよ。ワイルドだねぇ〜。
乗り味の違いは足まわりからも伝わってくる。GSX-Sはハード気味のサスペンションを通して路面からの細かい情報までが直接伝わってくるイメージ。峠道でも情報量が多いので不安なくペースを上げやすい。対してMTは不要な微振動をサスペンションが吸収し、必要な情報だけをクリアに伝えてくる。上品なフィーリングで乗り心地が良くロングツーリングでも疲れにくいといえよう。
またコーナーリングの感覚も異なる。GSX-Sがハンドルを上から押さえるような感覚でフロント荷重し、バンクさせてからもグイグイと前輪を軸に積極的に旋回させていくイメージ。やんちゃな感じがたまらない。対してMTは高い位置にあるハンドルを、身体全体を使った荷重移動にあわせてストンと落とすようにバンクさせていき、コーナー出口では後輪から伝わるクリアな接地感を頼りに大パワーをかけて豪快に加速させていく。ハンドリングに定評があるヤマハならではの演出がニクい。個人的には80年代の空冷並列4気筒エンジン搭載のスーパーバイクをさらに洗練させたような挙動とも受け取れ、好感をもった。
【ルーツの伝承】
格段にフレンドリーだったスーパースポーツ
サーキットでタイムを刻むことを目指しているスーパースポーツは、公道では手強く感じるモデルも少なくなかった。だが2005年に登場したGSX-R1000(K5)は違った。ロングストロークを採用した直列4気筒エンジンは低中回転域のトルクが太く市街地でもコントローラブル。シート高も低く、フレンドリーなパッケージングで、スポーツ走行のみならずツーリングもOKという守備範囲の広さがウケた。その最強と呼ばれたパワーユニットをGSX-S1000では、さらにストリート向けにセットアップ。パワフルな走りの源なのだ!
フィーリングこそ異なれど、スーパースポーツに匹敵するポテンシャルを秘めた大排気量ネイキッドを全身で操る感覚はストリートファイターの醍醐味のひとつ。それがこんなに違うカタチで体験できるなんて。メーカーの設計方針や車両価格の差による部品のクオリティの違いなど要因はいくつかあるが、どちらもエンジンや車体が持つ高性能をストリートやワインディング、さらにはツーリングでも満喫できるように仕上げられている。う〜む、今回もレベルがめっちゃ高い対決だぞ。どっちにも良いトコロがありすぎ!
ワインディングでも同様。GSX-Sは常に「おりゃあっ! 」と振り回し、ライダーとバイクとの濃密なコネクションを満喫するのに対し、MT-10は余裕を持って「スイッ」と走る感じ。それでいてペースは変わらないのだから面白い。上品だからと言って決して遅いというわけではなく、むしろ「能ある鷹は爪を隠す」的に、底知れぬ実力を必要な分だけ提供してくれるようなイメージだ。
短距離で充実感やバイクとの一体感を目いっぱい楽しみたいのなら電子制御の設定などもシンプルで付き合いやすいGSX-S。気兼ねなくロングツーリングにも出かけられる優しさを備えていて、それでいてソノ気になればスゴイというのがMTといったイメージだ。
ストリートファイターと言えば激しい味付けこそが魅力、というイメージもあったが、GSX-Sでは「やっぱコレっすよね! 」と思えたし、逆にMT-10は「こういうストファイがあってもイイナ」とも思えた。同じストファイでも方向性はかなり異なる。公道レベルの速度域でも確かな違いがあるのだ。
「ストリートファイターって、いったい何と戦うんだよ」と突っ込んでいたが、確かに交通社会は共生が大切だ。無駄に戦ってはイケナイよ。こういった超高性能バイクを日常的に付き合いやすくまとめてくれているストファイは、アクティブなライダーを楽しませてくれる魅力的なカテゴリーだけど、自制心をもって楽しみたいね。ピース!