文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事はウェブサイト「ロレンス」で2024年7月23日に公開されたものを一部編集し転載しています。
水素は、ガソリン比で体積あたりのエネルギーが1/4なのです
ICE(内燃機関)を「カーボンニュートラル」な時代にも活用するための手段として、主にペトロール ヘッド・・・内燃機関大好きな乗り物好きたちから期待されているのが、燃料に水素を使う水素ICEの技術です。
なおカワサキは、2023年に発表された水素ICE、水素充填システム、燃料供給システムなどを研究している技術研究組合、HySE(ハイドロジェン スモール モビリティ アンド エンジン テクノロジー)のメンバーであり、過去には水素ICE搭載のサイド バイ サイド(4輪バギー)を公表したりしています。
※鈴鹿8耐に登場した、「水素エンジン研究開発実験モデル」のニュースはこちらをご参照ください。
鈴鹿8耐で公開された「水素エンジン研究開発実験モデル」はカワサキNINJA H2 SXをベースにしていますが、外観的に一番目をひくのは、車体後部の両側面に張り出した巨大な「構造物」でしょう。
EICMA 2022で発表されたカワサキの水素ICE搭載車では、カートリッジ型の水素タンクがパニアケース的な構造体に収納されている透視イメージ図が紹介されていましたが、今回デモ走行した車両がどうなっているのかは気になるところです。
過去に紹介した水素ICE技術に関する記事でも何度か触れましたが、ガソリンICE車をベースに水素ICE車を作る場合、燃料タンクのサイズは大きな問題になるのが現状です。
水素はガソリンに比べ、体積あたりのエネルギーがおよそ1/4しかありません。大雑把な計算ではありますが、19リットル容量の燃料タンクを持つNINJA H2 SXと同等のエネルギーを運ぶためには、19×4=76リットルのタンク容量が水素ICE車には最低でも必要になるわけです。
ともあれ? 今後の水素ICE搭載バイク関連ニュースに注目したいですね!
体積あたりのエネルギーの問題のほかにも、水素ICEの燃料タンクが大きくなる要因はあります。1mm以下の厚みの金属製でオッケーなガソリン用タンクに対し、断熱性とともに厳密な気密性が求められる水素タンクの小型化が、いかに大変かは容易にイメージできると思います。
水素をエンジンの燃料として使うのに、最も適している乗り物は大型旅客機でしょう。バイクやクルマなど地上を走る乗り物に比べ、空を飛ぶ旅客機はサイズが大きくなるほど「電動化」が難しいです。川崎重工業やエアバスは水素燃料を使った旅客機の開発を現在しており、エアバスは2035年までの商業運用開始を目指していることが話題になっています。
世界の2輪業界の「ホンネ」としては、スクーターなどのコミューター的小型車はバッテリー交換式の電動車に今後置き換えていくとして、趣味製が高い大型バイクなどはガソリン代替の非化石カーボンニュートラル燃料でOKとしてほしい・・・というところでしょう。同様に、航空機業界も願望含みでSAF(持続可能な航空燃料)をメインに考えているでしょうが、もし川崎重工業やエアバスなどの水素航空機ビジネスが将来成功したら、多大なカーボンニュートラルへの貢献が実現することになるでしょう。
液体、気体という状態の違いを問わず、水素を貯蔵するためには既存のガソリンICE車に比べ燃料タンクが大きくなってしまう・・・という問題点を踏まえると水素ICE搭載バイクの製品化は、実現がかなり難しいプロジェクトに思えます。カワサキのコンシューマー向け製品で考えると、バイク用ICEに近いICEを搭載するサイド バイ サイドやジェットスキーの方が、バイクより大きな燃料タンクを搭載しやすいという観点から、商品化への道筋をつけられやすそうな気がします・・・。
ガソリンを燃焼させるよりは環境に優しいとはいえどICEの宿命でゼロエミッションは不可能であること、エネルギー源である一次エネルギーではなくエネルギーキャリアである二次エネルギーであることなど、水素を燃料として使うことには大きなハードルが多数存在します。カーボンニュートラル時代の水素の使い途としては、余剰電力の貯蔵法やFC(燃料電池)用燃料というのが揺るがない本命といえるでしょう。
それでも、ICEの存続を望む人たちがICE燃料としての水素の可能性に希望を見出すことは、内心の自由として誰にも止めることができないでしょうね・・・。ともあれバイクに水素ICEを搭載することの可能性を探るために生み出されたこの車両が、今後どれだけの知見を私たちにもたらしてくれるのか・・・期待しましょう!
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)