文:中村浩史/写真:折原弘之
スズキ「ハヤブサ」ツーリング・インプレ
次はどこへ行こう。そんな悩みが尽きないハヤブサ
もう200PSや300km/hの時代じゃない――。第三世代のハヤブサは、超高速域の安定性をさほど重視しなくていいことから、もっと現実的なスピード、たとえば日本の高速道路で許される120km/hといったエリアでの安定性を重視しているのだと思う。
「第三世代の開発スタート時には、もっとスポーツ性に振ろう、という声もあった。実際にそういうプロトタイプも出来ましたが、世界中のハヤブサファンの方は、シャープなハンドリングのハヤブサは欲しがらないだろう、という方向で落ち着きました」というのは、ハヤブサの開発チーム、スズキの二輪第一技術の安井信博部長だ。
運動性を上げるならば、もっと軽量コンパクトに仕上げるのがセオリー。その技術ノウハウも豊富に持っているけれど、それはハヤブサじゃない。
「軽々しくない、存在感あるビッグバイクでありたい。技術的に可能でも、200PSオーバー、重量20kg減量もハヤブサ的じゃない」というのは、二輪営業・商品企画グループの粕谷賢一さん。
ハヤブサはハヤブサ――これがスズキの開発チームの答え。スーパーヘビー級のバイクでありながら、それを苦にしない。ハイパワーで超高速走行が可能でありながら、街乗りだって快適にこなせるのがハヤブサなのだ。
筆者もこれまで、第一世代のハヤブサで東北を一周、第二世代で九州往復という長距離ツーリングをはじめ、軽く数1000km、1万km近くはハヤブサに乗っている。500km走ると、たしかに肩も首も痛い弱前傾スタイルだけれど、2日目にはハヤブサの乗り方が身について、いつも以上に「腰」で乗るといいのだと体でわかる。
私の場合は、ニーグリップはさほど強めずに、両手はハンドルに手をかけるだけ、という姿勢がいちばんラクだった。ハヤブサの直進安定性とクルーズコントロールのおかげで、もっと距離を伸ばしても体が悲鳴を上げない、そんなオートバイに育っていく。
今回は、猛暑の東京を抜け出して、高地の涼をもとめて、山梨長野方面へキャンプツーリングに向かった。東京都内の渋滞を抜けて高速道路へ、着いた先にはワインディングが広がる、山々の雄大な景色の中へ。1泊2日の往復600kmツーリングなんて、ハヤブサじゃほんのちょっと、の距離だ。
第三世代のハヤブサですぐに気が付いたのは、これまでよりずっとツーリングモードが優しくなったことだ。
エンジンのパワーフィーリングはさほど変わらないが、回転フィーリングが洗練され、もっともっとイージーにパワーを引き出すことができる。
クイックシフトとクルーズコントロール装着の恩恵はすさまじく、この組み合わせのないモデルは、もうツーリング向きだと名乗るな(笑)という気もしてくる。クルーズコントロールは40km/hから、左ハンドルの上下ボタンで、設定速度も1km/h刻みで調節できる。旅の後半には、一般道のバイパスでもクルーズコントロールボタンを使ったほどの快適さだった。
開発チームが教えてくれた「200PSオーバーとか300km/hを考えないでいいキャラクターに」という狙いも理解できた気はする。
高速道路くらいまでのスピード域なら、第二世代までよりもやや軽快なハンドリングで、ワインディングを攻めるでもなくペースを上げて走っていると、荷重が少しフロント寄りになって、回頭性がよく、頑張らなくてもよく曲がる。体重を入れてみると、もっとよく曲がる、そんなハンドリングだ。
こういうイージーさが長時間の走りを快適にしてくれるのだと、ハヤブサ生みの親たちは知っている。次はどこに行こう、今度はあの景色も見てみたい――そんな気持ちがわき上がるオートバイこそ、ハヤブサなのだ。
取材協力:みずがき山森の農園キャンプ場
東京からおよそ200km。中央高速・須玉インターから約1時間の場所にあるみずがき山 森の農園キャンプ場は、秩父甲斐国立公園の西端、標高1400mの、白樺に囲まれた農園併設のキャンプ場。テントサイト、バンガローがあり、日帰りのデイキャンプも受け付けてくれる。夜には高原の星がきれいに見ることができる最高のキャンプ場だった。